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確率論 (3) |
ほとんど確実に
確率空間$(\Omega,\mathcal{F},P)$が定義されたので、確率が0になる事象に関して有用な概念をいくつか説明します。
ある事象$N\in\mathcal{F}$で、$P(N)=0$なるものをP零集合あるいは零事象と呼ぶ。
例えば、今度は1から4までの目のあるサイコロにおいて、出目が2以下かどうかを観察します。 $$\Omega=\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}$$ $$\mathcal{F}=\{\varnothing, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}\}$$ であるときに、たまたま歪んだサイコロで、 $$ P(\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\})=0 $$ であった場合、事象$N=\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}$は零事象と呼びます。
ある事象$E\in\mathcal{F}$で、$P(E)=1$であるとき、$E\ (a.s.)$等と書き、Eはほとんど確実に起こるという。
上記零事象$N=\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}$を全事象から除いた余事象$N^c=\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}$ですが、全事象ではないものの、 $$P(\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\})=1$$ となり、事象$\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}\ (a.s.)$となります。
一般に零事象の部分集合は、元の$\mathcal{F}$の元になっているとは限りません。実際に上記零事象$N=\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}$の部分集合$E_3=\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\}$や$E_4=\{\img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}$は
$$\mathcal{F}=\{\varnothing, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}\}$$ に含まれません。一方、
零事象$N$の部分集合が全て事象$\tilde{\mathcal{F}}$に含まれている場合は、確率空間$(\Omega,\tilde{\mathcal{F}},\tilde{P})$は完備であるという。
上記のように完備でない確率空間の場合、完備化は容易です。事象族$\mathcal{F}$に$E_3$と$E_4$及び、それらと元の元の和集合を含めれば良いだけです。実際にやってみると、
$$
\tilde{\mathcal{F}}=\{\varnothing, \{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d4s.png}\},
\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png},
\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}\}
$$
が、完備化された事象です。ここで$E_3$や$E_4$の確率を求めると、もともと
$$
P(\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\cup\img[-0.2em]{/images/d4s.png}\})=P(\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\})+P(\{\img[-0.2em]{/images/d4s.png}\})=0
$$
であることから、$P(A)\geq 0$より、
$$
P(\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\})=P(\{\img[-0.2em]{/images/d4s.png}\})=0
$$
このように、それらは加法公理から零事象となるため、定量的な議論には影響がありません。従って、議論の対象となる確率空間$(\Omega,\mathcal{F},P)$は完備であると前提しても良いわけです。