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確率論 |
確率とは何か
測度・確率・ルベーグ積分 応用への最短コース (KS理工学専門書)によれば、「確率とは何か。この深遠な問題に対する完全な解答を我々は持っていないが、この問題から相当の部分を捨象した数学的定義としては、20世紀に入ってコルモゴロフ(Kolmogorov, Al.L., 1903-1987)によって与えられた、公理に基づく確率空間と確率の定義が、現状では理論と応用の両面で最も成功している」とのことです。
そのため本ブログでも公理的確率論を解説します。公理的確率論とは、確率とはこうであると定義するのではなく(それだと、こういうものは確率なのかと様々な疑問が出る)、こういう性質を持つものを確率と呼ぶと、公理から出発する方法論です。これにより、公理、つまり正しいと認めたものから出発するため、疑いようのないものになります。
確率論の準備として$\sigma$加法族の定義から始めます。
$\sigma$加法族の定義
空でない集合$S$の、様々な部分集合$E_n$を元とする集合族$\mathfrak{B}$が、次の3つの条件を満たすとき、$\mathfrak{B}$を$\sigma$加法族(もしくは$\sigma$-field、$\sigma$-algebra)と呼ぶ。
- $$\varnothing\in\mathfrak{B}$$
- $$E\in\mathfrak{B}\Rightarrow E^c\in\mathfrak{B}$$
- $$E_n\in\mathfrak{B}(n=1,2,...)\Rightarrow\bigcup_{n=1}^{\infty}E_n\in\mathfrak{B}$$
また、$S$の部分集合で$\sigma$加法族$\mathfrak{B}$に属する$E$を$\mathfrak{B}$可測であるという。さらに、$(S,\mathfrak{B})$のペアを可測空間と呼ぶ。
無限の記号$\infty$があることより判りますが、$\sigma$加法族の元は可算無限個です。
生成された$\sigma$加法族
空でない集合$S$の、様々な部分集合$E_n$を元とする集合族$\mathfrak{B}_0$に対して、この$\mathfrak{B}_0$を含むような$\sigma$加法族のうち最小のものが存在する。これを$\sigma[\mathfrak{B}_0]$と書き、$\mathfrak{B}_0$から生成された$\sigma$加法族と呼ぶ。
実例
$\sigma$加法族が抽象的で分かりにくいので、具体例で見てみます。$\sigma$加法族は頭で考えても書き下せるものの、往々にして抜け漏れが出ます。そのため、プログラムで確認することにします。確認には以下のpythonプログラムを使用しました。 https://qiita.com/ktsysd/items/97f75330f9492e727799
from sympy import FiniteSet, EmptySet from itertools import combinations def is_sigma_algebra(Om, FF): return (Om in FF) \ and (all(Om - e in FF for e in FF)) \ and (all(l + r in FF for l, r in combinations(FF, 2))) def append_complements(Om, F): return sum((FiniteSet(Om - e) for e in F), F) def append_unions(F): return sum((FiniteSet(l + r) for l, r in combinations(F, 2)), F) def generate_sigma_algebra(Om, F): cur_F = F + FiniteSet(Om) prev_F = EmptySet() while prev_F != cur_F: prev_F = cur_F cur_F = append_complements(Om, cur_F) cur_F = append_unions(cur_F) assert is_sigma_algebra(Om, cur_F) return cur_F
これをJupyter Notebookに入力して、(有限ですが)$\sigma$加法族の生成を行ってみます。まず、集合$S$が$S=\{1, 2, 3, 4\}$であるときを考えます。集合Sは数の集合でなくても良いので、例えばサイコロの目の集合$S=\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}$でも構いませんし、確率の議論ではむしろその方が良く出てきます。ですが、Jupyter Notebookで扱うためには数値でなければならないので、数値に置き換えます。
まず簡単なほうから。$E_1=\{1, 2\}$、$E_2=\{3, 4\}$とします。これらを元とする$\mathfrak{B}_0=\{E_1, E_2\}$によって生成される$\sigma[\mathfrak{B}_0]=\sigma[\{E_1, E_2\}]$は、
generate_sigma_algebra(FiniteSet(1, 2, 3, 4), FiniteSet({1, 2},{3,4}))
{∅,{1,2},{3,4},{1,2,3,4}}
生成された集合は$\sigma$加法族構造を持ち、上記の公理を満足しています。
次に$E_1=\{1, 2\}$、$E_2=\{1, 3\}$のように変えると、次の例のように生成される元の数が非常に多くなります。同じくこれらを元とする$\mathfrak{B}_1=\{E_1, E_2\}$によって生成される$\sigma[\mathfrak{B}_1]=\sigma[\{E_1, E_2\}]$は、
generate_sigma_algebra(FiniteSet(1, 2, 3, 4), FiniteSet({1, 2},{1,3}))
{∅,{1},{2},{3},{4},{1,2},{1,3},{1,4},{2,3},{2,4},{3,4},{1,2,3},{1,2,4},{1,3,4},{2,3,4},{1,2,3,4}}
len(generate_sigma_algebra(FiniteSet(1, 2, 3, 4), FiniteSet({1, 2},{1,3})))
16
元の数が$2^4=16$であることから、これはSのべき集合$2^S$であることが判ります。