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あるWebの記事について (2)

posted by sakurai on July 8, 2019 #125

同じ記事のPMHFについても怪しいところがあります。

まずPMHFそのものは単純で故障する頻度そのものである。ただ実際には1億回あたり1回未満というのはかなり難しい。一般にエレクトロニクス業界で使われている故障頻度には「FIT」(Failure in Time:10億時間あたりに発生する故障回数)と呼ばれるものがあるが、自動車向けのMCUなどではどんなに少ないものでも20FIT(10億時間あたり20回)といわれており、このままでは10^-8/hを満たせない。 ただ、PMHFは、ある特定の回路そのものの故障頻度ではなく、システム全体の故障頻度と見なすこともできる。例えば全ての部品を二重化しておき、片方が壊れてももう片方がそれを引き継ぐことができるとすれば、トータルとしての故障頻度は10FITに減る計算になり、これでASIL DのPFHFの目標をクリアできることになるからだ。

要約すれば、主系とバックアップ系が、それぞれ20FITの故障率を持つ2重化システムがあるとき、「トータルとしての故障頻度」が10FITになるということのようです。

実際には「トータルとしての故障頻度」はDPF(Dual Point Failure)の時であるから、車両寿命を$T_\text{lifetime}$として単純な確率計算では、 $$ \Pr\{\text{DPF}\}=\Pr\{\text{Channel 1 failed}\cap\text{Channel 2 failed}\} =\Pr\{\text{Channel 1 failed}\}\Pr\{\text{Channel 2 failed}\}\\ =(\lambda_\text{IF}T_\text{lifetime})(\lambda_\text{SM}T_\text{lifetime}) =(10\times 10^{-9})^2{T_\text{lifetime}}^2=1\times 10^{-16}{T_\text{lifetime}}^2 $$ となります。

この確率には主系⇒バックアップ系のフェイルオーバーだけでなく、その逆の場合も含まれるので、フェイルオーバーの場合のPMHF、すなわち平均PUDを求めると、この1/2を$T_\text{lifetime}$で割った値となります。 $$ M_\text{PMHF}=\overline{PUD}=\frac{1}{2}\lambda_\text{IF}\lambda_\text{SM}T_\text{lifetime} $$

この値は、車両寿命がいくら大きくても10FITにはなりません。例えば車両寿命が10万時間の場合のPMHF、すなわち平均PUDは、 $$ M_\text{PMHF}=\overline{PUD}=\frac{1}{2}\lambda_\text{IF}\lambda_\text{SM}T_\text{lifetime}=0.5\times 10^{-16}\cdot 1\times 10^{5}=0.005[FIT] $$ となります。逆にこれが10FITだとすると、車両寿命は5,708年というあり得ない値となってしまいます。

誤りの原因は2重化の場合の確率計算を1/2にしてしまったところにあります。本来は2重化システムにおいては、主系に故障があっても、バックアップ系が動作するフォールトトレラント性があるため、引き続いてバックアップ系にもフォールトが起きないとシステムの故障とはなりません。従って、確率計算としては両方にフォールトが起こる場合の、確率の掛け算になります。

以前の記事のように、レアイベント近似を用いれば、直列系は確率の足し算、並列系は確率の掛け算となります。表記の記事は、並列系で確率の掛け算をするところを、2冗長だから単純に1/2をかけたのかもしれませんが、正しくは10[FIT]ではなく0.005[FIT]のような、非常に低い数字になります。

いずれにせよ、故障頻度は故障確率として計算することを理解していないと、このような誤りを引き起こします。


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PMHFのバジェッティング

posted by sakurai on June 22, 2019 #116

Annex G

これも2nd Editionで新設されたAnnexですが、PMHFのバジェッティングについて記述されています。といっても従来からバジェッティングは現場では実施されていました。それと規格の意図するところは若干異なるようです。

従来のバジェッティング

まず1st Editionで実施されていたバジェッティングは、Part5 9.4.2.2 表6で規定される、PMHF目標値を分割するものでした。例えば、あるアイテムがASIL-Dの要求に基づき、アイテムにASIL-Dを割り当てます。ここで注意すべきは、エレメントには当初はASILは存在せず、あくまで要求の属性としてのASILが存在することです。エレメントには様々な安全目標によって、様々な要求が割り当てられますが、その中の最高レベルのASILにより、エレメントのASILが規定されます。

例えば、アイテムが3つのエレメントに分割され、それぞれ別のサプライヤによって開発される場合には、それぞれのサプライヤに対して、PMHF目標値を設定する必要があります。これを従来はバジェッティングと呼んでいました。アイテムで10FITの予算(バジェット)があり、それを配分するイメージとなります。例えば3つであれば、3.3FITずつ割り当てることができます。

図%%.1
図116.1 1st EditionのPMHFバジェッティング

2nd Editionのバジェッティング

規格でバジェットの単語が出てくるのはPart5 9.4.2.3の中です。9.4.2.3は上記の予算配分(分割)と言うよりも、多重割り当てと言ったほうがふさわしい節です。その理由は9.4.2.3は、上記のようにASIL-Dの目標をエレメントの数で分割するのではなく、比較的大きなシステム、例えばADASのように、物標認識システム、ブレーキ制御システム、エンジン制御システム等のように、それだけで従来はアイテムレベルであったシステムを複数組み合わせた場合のPMHFの考え方を表すものだからです。そしてその場合は、それぞれのシステムにASILを割り当て、10個までは組み合わせて良いと規定しています。例えばASIL-Dのシステムを10個までならぎりぎり目標が10倍となり10倍を超えませんが、10倍を超える目標値を設定することは許されていません。

図%%.2
図116.2 2nd EditionのPMHFバジェッティング

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posted by sakurai on June 20, 2019 #115

2nd Edition Annex F.3,4,5

次にF.3を見てみます。F.3は「評価対象のフォールト又は故障モードの選択基準の決定」となっています。本来はFMEDAのフォールトイベントの評価として全ての故障モードを評価すべきでしょうが、それだと数千件も評価しなければならないため、本節で故障モードの絞り込みを行うのだと思われます。

ちなみに、PMHFへの寄与率を厳密に考えると、PMHFのSPF部分とDPF部分がありますが、DPF部分は故障モードの組み合わせであるため、以下は全てPMHFの値(SPF+DPF)への、故障モードのSPF部分の寄与率と言う意味となります。

  1. SPFまたはRFに関して、DCが90%以下の全てのフォールト又は故障モード
  2. PMHFの寄与率が2%以上の全てのフォールト又は故障モード
  3. PMHFの寄与率が上位20位以内の全てのフォールト又は故障モード

この選択基準で絞り込むと、本例ではたまたま以下の値になります。

  1. 2件の故障モード⇒PMHFへの寄与率は95.68%
  2. 2件の故障モード(上記と同じ)⇒PMHFへの寄与率は95.68%
  3. 20件の故障モード⇒PMHFへの寄与率は99.89%

F.5では、これらは全てPMHFへの寄与率が95%以上であるから問題無しとしています。逆にそうであるなら、直接的に

  1. PMHFへの寄与率が95%を超えるまでの上位からの全てのフォールト又は故障モード

とするほうが自然ではないでしょうか。ちなみにこのような絞り込み条件を設定すると、2件の故障モード⇒PMHFへの寄与率は95.68%となり、上記1.及び2.と同様2件の故障モードを分析すれば良いことになります。以下に故障モードに関してPMHFへの寄与率が大きい順にリストします。

コンポーネント名 故障率
[FIT]
SR? 故障モード 分布[%] SM DC[%] λRF PMHFへの
寄与率[%]
PMHFへの
寄与率累積[%]
1 μC 100 Yes all 50 SM4 90 5.000 91.13 91.13
2 T61 5 Yes short 50 SM2 90 0.250 4.56 95.68

従って、分析方法をまとめれば、「 PMHFへの寄与率が95%を超えるまでの上位からの全てのフォールト又は故障モード」について絞り込みを実施し、それぞれに故障モードについて、安全方策がとられているかどうかを確認することになります。このときなぜ95%以上としたのかを問われたら、2nd Edition規格Annex F.3を参照したとなります。


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posted by sakurai on June 19, 2019 #114

2nd Edition Annex F

2nd Editionで新設されたAnnex F のFMEDAシートを図114.1に示します。

図%%.1
図114.1 2nd Edition, Annex F FMEDA

前稿と比較して、右端の欄が2つ増えており、重要なのはDPF_detです。Annex Fの「F.2 PMHF評価を提供する安全分析」において、 $$ PMHF_{\mathrm{est}}=\lambda_{\mathrm{SPF}}+\lambda_{\mathrm{RF}}+\color{red}{\lambda_{\mathrm{DPF,det}}}\color{green}{\lambda_{\mathrm{DPF,lat}}}T_{\mathrm{lifetime}}\tag{114.1} $$ でPMHFを近似していると書かれています。$\lambda_{\mathrm{SPF}}$、$\lambda_{\mathrm{RF}}$はSPFMを求めるため、$\color{green}{\lambda_{\mathrm{DPF,lat}}}$もLFMを求めるために既に表にあるため、$\color{red}{\lambda_{\mathrm{DPF,det}}}$が新たに表に必要となります。

ただし、弊社では(114.1)には異論があります。正しいPMHF式は、1st Editionの3番目の一般式を示すと、 $$ M_{\mathrm{PMHF}}=\lambda_{\mathrm{RF}}+\lambda_{\mathrm{IF,DPF}}\lambda_{\mathrm{SM,lat}}T_{\mathrm{lifetime}}\tag{114.2} $$ です。これは、1st Editionで述べられているとおり故障順序によらない式であり、$\lambda_{\mathrm{SM,lat}}T_{\mathrm{lifetime}}\gg\lambda_{\mathrm{SM,det}}T_{\mathrm{service}}$かつ、IFがアンリペアラブル、SMがリペアラブルの場合に成り立つことは検証済みです。

(114.2)と(114.1)を比較すると、DPFの項の2つの故障率が異なっています。(114.1)では主機能と安全機構の値を合わせた故障率$\color{red}{\lambda_{\mathrm{DPF,det}}}$及び$\color{green}{\lambda_{\mathrm{DPF,lat}}}$を使用しています。双方をIFとSMの和に分解すれば、 $$ \color{red}{\lambda_{\mathrm{DPF,det}}} =\lambda_{\mathrm{IF,DPF,det}}+\lambda_{\mathrm{SM,DPF,det}}=K_{\mathrm{IF,RF}}\lambda_{\mathrm{IF}}K_{\mathrm{IF,MPF}}+\lambda_{\mathrm{SM}}K_{\mathrm{SM,MPF}} \tag{114.3} $$ であり、たまたま$K_{\mathrm{SM,MPF}}=0$、$K_{\mathrm{IF,MPF}}=1$であることから、(114.3)は $$ \color{red}{\lambda_{\mathrm{DPF,det}}}=K_{\mathrm{IF,RF}}\lambda_{\mathrm{IF}}=\lambda_{\mathrm{IF,DPF}}\tag{114.4} $$ となります。本来はPMHF式(114.2)を鑑みると、これは$\lambda_{\mathrm{IF,DPF}}$とするべきです。また、同様に$\color{green}{\lambda_{\mathrm{DPF,lat}}}$もIFとSMの部分に分解すれば、 $$ \color{green}{\lambda_{\mathrm{DPF,lat}}} =\lambda_{\mathrm{IF,DPF,lat}}+\lambda_{\mathrm{SM,DPF,lat}}=K_{\mathrm{IF,RF}}\lambda_{\mathrm{IF}}(1-K_{\mathrm{IF,MPF}})+\lambda_{\mathrm{SM}}(1-K_{\mathrm{SM,MPF}}) \tag{114.5} $$ ですが、たまたま前述の$K_{\mathrm{SM,MPF}}=0$、$K_{\mathrm{IF,MPF}}=1$の条件から(114.5)は $$ \color{green}{\lambda_{\mathrm{DPF,lat}}}=\lambda_{\mathrm{SM}}=\lambda_{\mathrm{SM,lat}}\tag{114.6} $$ となり、値は結果的に正しくなります。しかしながら、この条件が常に成り立つとは言えないのと、より正確な値を$T_{\mathrm{service}}$を用いて算出するためには、IFとSMの値を合わせないほうが良く、結論として(114.2)を用いるべきと考えます。


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posted by sakurai on June 18, 2019 #113

2nd Edition Annex E

次に2nd Editionで新設されたAnnex F - PMHFの評価例について説明します。対象となる回路はAnnex EのFMEDAで解析した以下の回路です。

図%%.1
図113.1 2nd Edition, AnnexE 対象回路

それに基づくAnnex EのFMEDAシートの一部を示します。

図%%.2
図113.2 2nd Edition, Annex E FMEDA

これらは1st Editionの同じくAnnex Eに掲載されており、基本的に変わっていません。


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Kパラメータは条件付き確率か (3)

posted by sakurai on May 12, 2019 #100

前稿(99.1)において、時刻$t$から$t+dt$において、IFのフォールトがVSG抑止される微小確率を求めると、 $$ \Pr\{\mathrm{IF\ prevented}\cap\mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\cap\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}\\ =\Pr\{\mathrm{IF\ prevented}\ |\ \mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\cap\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}\\ \cdot\Pr\{\mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\ |\ \mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}\cdot\Pr\{\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}\\ =K_{\mathrm{IF,FMC,RF}}\lambda_{\mathrm{IF}}R_{\mathrm{IF}}(t)dt \tag{100.1} $$ ただし、 $$ \Pr\{\mathrm{IF\ prevented}\ |\ \mathrm{IF\ failed\ at\ }t\cap\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}=K_{\mathrm{IF,FMC,RF}},\\ \Pr\{\mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\ |\ \mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}=\lambda_{\mathrm{IF}}dt,\\ \Pr\{\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}=R_{\mathrm{IF}}(t) $$ となりましたが、「DCはSMのアーキテクチャにより決定される」ことを前提とし、フォールト発生とフォールト検出は独立な事象と考えれば、同じ確率式は、 $$ \Pr\{\mathrm{IF\ prevented}\cap\mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\cap\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}\\ =\Pr\{\mathrm{IF\ preventable}\}\cdot\Pr\{\mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\ |\ \mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}\\ \cdot\Pr\{\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}=K_{\mathrm{IF,FMC,RF}}\lambda_{\mathrm{IF}}R_{\mathrm{IF}}(t)dt \tag{100.2} $$ ここで、 $$ \Pr\{\mathrm{IF\ preventable}\}=K_{\mathrm{IF,FMC,RF}}, \\ \Pr\{\mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\ |\ \mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}=\lambda_{\mathrm{IF}}dt,\\ \Pr\{\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}=R_{\mathrm{IF}}(t) $$ と求められます。従って、(100.1)の$\Pr\{\mathrm{IF\ prevented}\ |\ \mathrm{IF\ failed\ at\ }t\}$という確率的な$t$の関数を、(100.2)の$\Pr\{\mathrm{IF\ preventable}\}$という定数に置き換えることができます。

2nd SMの属性である$K_{\mathrm{FMC,MPF}}$についても同様の議論が成り立ち、Kパラメータは条件付き確率ではなく、アーキテクチャ的に決定している能力(定数)として扱います。結論として、

$$ K_{\mathrm{IF,FMC,RF}}:=\Pr\{\mathrm{IF\ preventable}\}\tag{100.3} $$ $$ K_{\mathrm{IF,FMC,MPF}}:=\Pr\{\mathrm{IF\ detectable}\}\tag{100.4} $$ $$ K_{\mathrm{SM,FMC,MPF}}:=\Pr\{\mathrm{SM\ detectable}\}\tag{100.5} $$


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Kパラメータは条件付き確率か (2)

posted by sakurai on May 10, 2019 #99

(98.1)の定義を用いれば、時刻$t$から$t+dt$において発生するIFのフォールトについて、VSG抑止される確率を求めると、条件付き確率のチェインルールを用いれば、 $$ \Pr\{\mathrm{IF\ prevented}\cap\mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\cap\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}\\ =\Pr\{\mathrm{IF\ prevented}\ |\ \mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\cap\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}\\ \cdot\Pr\{\mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\ |\ \mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}\cdot\Pr\{\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}\tag{99.1} $$ ここで、それぞれ $$ \Pr\{\mathrm{IF\ prevented}\ |\ \mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\cap\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}=K_{\mathrm{IF,FMC,RF}},\\ \Pr\{\mathrm{IF\ failed\ in\ }(t, t+dt]\ |\ \mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}=\lambda_{\mathrm{IF}}dt,\\ \Pr\{\mathrm{IF\ not\ failed\ before\ }t\}=R_{\mathrm{IF}}(t) \tag{99.2} $$ であるから、 $$ (99.1)=K_{\mathrm{IF,FMC,RF}}\lambda_{\mathrm{IF}}R_{\mathrm{IF}}(t)dt\tag{99.3} $$ と、IFに関する故障率や信頼度関数で表すことができます。

問題1
しかしながら、Kパラメータ($K_{\mathrm{FMC,MPF}}$及び$K_{\mathrm{FMC,RF}}$)が条件付き確率として一定だと矛盾が起きます。抑止条件が確率的に作用することにより、例えば1回目にはVSG抑止されたフォールトが、2回目にはVSG抑止されないことが起こりえます。あるいは1回目にはリペアされたフォールトが2回目にはリペアされないことが起こりえます。検出が確率的になされるからとはいえ、同じ故障が検出されたりされなかったりするのは、合理性がありません。

問題2
次に、例えば故障検出率$K_{\mathrm{FMC,MPF}}$について考えると、長時間が経ち故障検出を長く続ける場合を考えます。検出されるフォールトは全量リペアされるのに比べて、検出されないフォールトはどんどん溜まって行き、不信頼度は上昇し続けます。従って、新たにフォールトするうちの検出される部分の比率が高まりそうであるのに、条件付き確率として一定値であると感覚に反します。

フォールト検出のたびにサイコロで検出を決めているならそのようになりますが、一般的には診断カバレージ(Diagnostic Coverage; DC)はSMのアーキテクチャにより決定され、確率的には検出されないとここでは考えることにします。そうすれば、上記の問題点は解消されます。

図%%.1
図99.1 Q(t)のグラフ

問題1
確率的に一定ではなく、アーキテクチャ的に一定量を必ず検出できるとした場合のグラフです。これであれば、$\tau$毎に必ず検出分は修理され、問題はありません。

問題2
これに関しても、アーキテクチャ的に一定量を必ず検出できるとした場合、グラフから見られるように、不信頼度は時間と伴に上昇していきます。


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posted by sakurai on April 28, 2019 #98

PMHF式において、あるいはその前提となる故障分類フローにおいて、Kパラメータが2種存在します。 具体的には$K_{\mathrm{FMC,RF}}$と$K_{\mathrm{FMC,MPF}}$の2種類です。それぞれ、1st order SMのVSG抑止率及び2nd order SMのフォールト検出率を意味します。規格では定数のように書かれているので、それぞれ $$ K_{\text{FMC,RF}},\\ K_{\text{FMC,MPF}} $$ と記述できます。

ここで1st order SMとは、主機能IFのフォールトによるSG侵害を抑止する働きを持つSMであり、2nd order SMとは、(主機能やSM等の)エレメントのフォールトがレイテントフォールトとなることを阻止する働きを持つSMです。

さらに、Kパラメータは、主機能とSMにそれぞれ存在するため、IF-SM-2nd SMモデル全体では $$ K_{\mathrm{IF,FMC,RF}},\\ K_{\mathrm{IF,FMC,MPF}},\\ K_{\mathrm{SM,FMC,MPF}} $$ の3種類が存在します。一般的にはSMのフォールトはVSGとならないため、$K_{\mathrm{SM,FMC,RF}}$は存在しません。

さて、当初、例えばこの記事でもこのKパラメータは定数であり、かつ条件付き確率であると解釈していました。例えば、 $$ K_{\mathrm{IF,FMC,RF}}:=\Pr\{\mathrm{IF\ prevented}\ |\ \mathrm{IF\ failed}\},\tag{98.1}\\ K_{\mathrm{IF,FMC,MPF}}:=\Pr\{\mathrm{IF\ detected}\ |\ \mathrm{IF\ prevented}\},\\ K_{\mathrm{SM,FMC,MPF}}:=\Pr\{\mathrm{SM\ detected}\ |\ \mathrm{SM\ prevented}\}\\ $$ と定義されます。

ただし上記は若干省略して書かれており、詳細に書けば、$\Pr\{\mathrm{IF\ prevented}\ |\ \mathrm{IF\ failed} \}$は$\Pr\{\mathrm{VSG\ of\ IF\ is\ prevented}\ |\ \mathrm{IF\ is\ failed} \}$であり、$\Pr\{\mathrm{IF\ detected}\ |\ \mathrm{IF\ prevented}\}$は、$\Pr\{\mathrm{The\ fault\ of\ IF\ is\ detected}\ |\ \mathrm{VSG\ of\ IF\ is\ prevented}\}$となります。

ここで、規格に書かれていない2nd SMの修理率は100%であり、

$$K_\text{SM,FMC,rep}=\Pr\{\text{SM repaired}\ | \text{SM detected}\cap\text{SM failed}\}=1.0$$


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posted by sakurai on November 12, 2018 #70

冗長構成とは以下のように定義されます。

  • 冗長構成 --- 機能的に対称な冗長。1oo2の冗長であり、2つのチャネルから成り、主系も従系もどちらも主機能を果たす一方、他方が故障した場合にVSGを抑止するSMの機能を果たす。

この冗長構成サブシステムにPMHFの値は2つあるのでしょうか?

具体例でみてみましょう。図のヘッドライト回路において、マイコンとトランジスタスイッチの両方からヘッドライトを点灯する機能があるとします。両者ともコンビネーションスイッチ情報を読み込み、点灯するものとします。さて、この場合、どちらが主機能でどちらが安全機構でしょうか?

図%%.1
図70.1 非対称冗長システム例

この場合は冗長構成であるため、両方とも主機能となります。両方ともヘッドライト点灯という主目的をはたしているからです。一方で両方とも安全機構です。他方がフォールトしたときに、ライト消灯という、システムとしての機能喪失を抑止するためです。

具体的に数値を入れて見てみます。故障率をそれぞれ、スイッチ入力回路は1FIT、マイコンは100FIT、ドライバ出力回路は1FITとします。仮にマイコン側のチャネルを主機能、反対側をSMとし、主機能とSMの互いのSG侵害防止率を99%とすれば、PMHF第1式は、 $$ M_\mathrm{PMHF}=1.025FIT $$ となります。一方、どちらを主機能と見ても良いので、逆にすれば、 $$ M_\mathrm{PMHF}=0.015FIT $$ となります。このようにPMHFの値は2つあることになります。

しかしながら、設計意図の違いでアイテムのダウン確率が変わるはずがないため、これは明らかに誤りと分かります。論文で指摘したとおり、規格式が冗長に対応しておらず、MとSMに関して対称でないためです。

2nd Editionでは、MとSMに関して対称となっているので、本問題が解決されているように見えますが、既述のとおりある問題が残っています。


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posted by sakurai on November 5, 2018 #69

デュアルポイントフェイリャ

次にDPFについて、弊社が考える式とどこが相違しているかを見ていきます。

まず、SMがVSGとならない場合のパターン1式は特定条件(※1)でのみ合っています。この条件は1st Edition規格第1式とも同じです。次にパターン2は特定条件(※1)において前述のように2倍だけ異なっています。この2倍の理由は不明です。追記:4年後に判明したのでこの記事に記載しました。
※1 $K_{IF,lat}=0\cap K_{SM1,det}=1$の場合。これを言い換えると、IFはVSGの可能性があるが修理不可能、かつ、SM1はVSGの可能性無しで修理可能。

さらにパターン3、4式は特定条件(※2)でのみ合っています。単にパターン1, 2をひっくり返した(IFとSM1を入れ替えた)式のように見えます。
※2 $K_{SM1,lat}=0\cap K_{IF,det}=1$の場合。これを言い換えると、SM1はVSGの可能性があるが修理不可能、かつ、IFはVSGの可能性無しで修理可能。

これは以下の条件からくるものと推測します。以下は2nd Edition Part10 8.3.2.3 Table 2の引用です。

表69.1
First fault:SM1⇒Second fault:IF First fault:IF⇒Second fault:SM1
Cannot notify the driver Pattern 1 Pattern 3
Can notify the driver Pattern 2 Pattern 4

つまり、Pattern1及び2はIFフォールトによるVSGであり、SM1は修理系、IFは非修理系を仮定しています。 一方、Pattern3及び4はSM1フォールトによるVSGであり、Pattern1及び2のIF/SM1を入れ替えたものとなっているところから推測すればIFは修理系、SM1は非修理系を仮定しています。

いずれも最初のフォールトが起きるエレメントは、upしたりdownしたりを繰り返しても良いのですが(=修理可能という意味)、2番目にフォールトが起きるエレメントは、(最初のフォールトがリペアされた場合)downしたりupしたりするはずが、2番目にdownすることしか許されていません。これは非修理系を意味します。つまり後からフォールトするエレメントの制約が強すぎます。このことは言葉の定義だけで理解されるものではなく、その仮定から導出された1st Editionの式の意味まで考えて初めて理解されることです。

いずれにしろ、この前提はIFもSM1も$t=0$において修理系という一般的なサブシステムに対して、修理不可能という制約をかけすぎているため、PMHFの過大評価につながります。

弊社が考えるPMHFの一般式

IFとSM1が$t=0$において修理系という条件で、マルコフ状態遷移図を書き、確率微分方程式を立て積分して平均PUDを算出した式において、Edition 1の方法で上界を求めた式は、 $$ M_{PMHF}=\lambda_{IF,RF}+\img[-1.35em]{/images/withinseminar.png}\tag{69.1} $$ となります。

規格の式(図68.1)は、実際よりも過剰な※1または※2のみで成立する式です。


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