12 |
PMHF式関連論文Rogova2019 (4) |
アブストラクトの最後
本論文$\dagger$の最初に戻ってみると、アブストラクトの最後に、
本論文で示す比較分析により、PFH公式とPMHF公式が異なるケーススタディに対して同様の結果を与えることが実証された。
と主張していますが、ISO 26262の仮定を捨ててIEC 61508と同様な非修理系という誤った仮定を導入すれば、似たような式が得られても当然です。
本来はPeriodic inspection and repair (PIR) 保守戦略に基づく不稼働度を計算すべきであり、その仮定の元ではPMHF式は似たような式にはなりません。
誤りの背景
総じてこれらの仮定の誤りはISO 26262を良く分析していないことからくるものと思われ、これはIEC 61508出身の研究者にしばしば見られる現象です。それは、IEC 61508の観点からしかISO 26262を眺められないところに原因があります。
彼らの論文や資料には特有のパターンがあり、ISO 26262の論文や資料であるにも関わらずDU, DDで始まったら要注意です。そもそもISO 26262にはDU, DD等の用語はなく、かつDU, DD故障率はオブザーバブルではないため、以下のように1st SMのカバレージであるKパラメータ$K_\text{RF}$を用いて示すべきです。 $$ \lambda_\text{DD}=K_\text{RF}\lambda_\text{IF},\ \lambda_\text{DU}=(1-K_\text{RF})\lambda_\text{IF} $$
さらに、ISO 26262に存在する故障の区別、具体的にはSPFとDPFの区別がIEC 61508には存在しません。DPFは1oo2として取り扱うべきです。多くの著者はIEC 61508には存在しないLF(以下の式の$\lambda_\text{MPF,l}$)の概念が理解できずに故障率を以下の誤りの式の如く、全て加算してしまいがちです。過去記事中の論文や資料にも同様な誤りが見られます。 $$ \lambda_\text{DD}=\lambda_\text{SPF}+\lambda_\text{RF}+\lambda_\text{MPF,l} $$
さらに、修理の概念が無いようで、ISO 26262の基本の仮定であるPIRを考慮していません。
「ISO 26262などはIEC 61508の派生ないし亜流だ」と言う誤った考えを持たないことが、ISO 26262の理解の秘訣となります。
$\dagger$E. Rogova, C. Nowak, M. Ramold, et al., "Comparison of Analytical Formulas of PFH and PMHF Calculation for M-out-of-N Redundancy Architecture," Europ. Safe. Reliab. Conf.,, pp.1-5, 2019