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連続時間マルコフ連鎖とPFH式の導出 (6) |
10 FIT・1万時間では 2 回目以降の寄与はどれくらいか
前稿の (1062.7) は、PFH と PMHF 型の量の厳密な差が、寿命区間 $[0,T]$ における 2 回目以降の危険事象の寄与であることを示していました。ここでは、その差が実用上どの程度の大きさになるのかを、一定危険故障率を仮定した数値例で見ておきます。
前稿の記号をそのまま使えば、
$$ \mathrm{PFH}(0,T)-\mathrm{PMHF}^{\ast}(T) =\frac{1}{T}\sum_{n\ge2}(n-1)\Pr\{N_\text{DF}(T)=n\} \tag{1066.1} $$
です。
ここで、危険事象の発生率を一定とみなし、寿命区間内の危険事象回数 $N_\text{DF}(T)$ をポアソン分布で近似します。たとえば、エンジン制御の目標値として危険故障率を 10 FIT、車両寿命を 1 万時間とすると、
$$ \lambda = 10\,\mathrm{FIT}=10^{-8}\,\mathrm{h}^{-1},\qquad T = 10^{4}\,\mathrm{h},\qquad \mu:=\lambda T=10^{-4} \tag{1066.2} $$
です。
このとき、寿命区間内に 2 回以上危険事象が起きる確率は
$$ \Pr\{N_\text{DF}(T)\ge2\} =1-e^{-\mu}(1+\mu) \approx 4.99966668\times10^{-9} \tag{1066.3} $$
となります。これは寿命全体で見ても約 5 ppb です。
これを寿命で割って FIT 風に書けば、
$$ \frac{1}{T}\Pr\{N_\text{DF}(T)\ge2\} \approx 4.99966668\times10^{-13}\,\mathrm{h}^{-1} =4.99966668\times10^{-4}\,\mathrm{FIT} \tag{1066.4} $$
です。
同じ仮定の下で、(1066.1) の厳密差そのものは
$$ \mathrm{PFH}(0,T)-\mathrm{PMHF}^{\ast}(T) =\lambda-\frac{1-e^{-\lambda T}}{T} \approx 4.99983334\times10^{-13}\,\mathrm{h}^{-1}\\ =4.99983334\times10^{-4}\,\mathrm{FIT} \tag{1066.5} $$
となります。(1066.4) とほとんど同じ値になるのは、この条件では 3 回目以降の寄与がさらに極小だからです。
10 FIT という目標値に対する比で見れば、
$$ \frac{4.99983334\times10^{-4}}{10} \approx 4.99983334\times10^{-5} \approx 0.005\,\% \tag{1066.6} $$
です。
したがって、10 FIT・1 万時間という典型的な条件では、PFH と PMHF 型の量の厳密差は数値的には約 $5\times10^{-4}$ FIT にすぎず、2 回目以降の危険事象の寄与は実務上ほぼ無視できる範囲にあります。
この数値例が示しているのは、前稿の (1062.7) が表している「厳密な差」は確かに存在するものの、寿命区間全体に希少事象近似を拡張しても、多くの実用条件ではその差が十分小さい、ということです。