Posts Issued on March 18, 2026

posted by sakurai on March 18, 2026 #1064

PFH の $\sum\lambda$ 式はどの仮定から出るか

前稿では、同じ IF-SM 潜在状態モデルを PFH 側にも持ち込むと、PFH も PMHF と同じ形の 2 次項を持つことを示しました。これに対して、IEC 61508 の本文では PFH は各サブシステムの $\lambda$ を加える形で提示されており、その加法形がどの状態モデルの縮約であり、どの仮定の下で妥当かは、その箇所では明示されていません。したがって、規格を素直に読む限り、PFH は実質的に $\sum\lambda$ で与えられる量として受け取られます。本稿では、その表示式の背後で何が省略されているかを整理します。

前稿の結果を抽象化すると、PFH 側で、危険事象の直前にある潜在状態の時点不稼働確率を $Q_\text{LAT}(t)$、そこから危険事象を生じさせる最後の危険故障率を $\lambda_\text{last}$、単独で危険事象を生じさせる SPF 寄与を $\lambda_\text{SPF}$ としたとき、

$$ \mathrm{PFH}(0,H)\approx\lambda_\text{SPF}+\frac{\lambda_\text{last}}{H}\int_0^H Q_\text{LAT}(t)\,dt \tag{1064.1} $$

と書けます。

ここで、潜在状態を持たず、危険事象が SPF のみから生じるなら

$$ Q_\text{LAT}(t)=0 \tag{1064.2} $$

なので、

$$ \mathrm{PFH}(0,H)\approx\lambda_\text{SPF} \tag{1064.3} $$

となります。

さらに、互いに独立な SPF 寄与が $m$ 個あり、それぞれの危険故障率を $\lambda_{\text{SPF},i}$ とすると

$$ \mathrm{PFH}(0,H)\approx\sum_{i=1}^{m}\lambda_{\text{SPF},i} \tag{1064.4} $$

です。これが、規格で見える $\sum\lambda$ 形です。

一方、潜在状態が存在し、その蓄積が区間内で線形に近似できるなら

$$ Q_\text{LAT}(t)\approx\lambda_\text{LAT}t \qquad (0\le t<H) \tag{1064.5} $$

なので、

$$ \mathrm{PFH}(0,H)\approx\lambda_\text{SPF}+\frac{1}{2}\lambda_\text{last}\lambda_\text{LAT}H \tag{1064.6} $$

を得ます。

したがって、規格で PFH が $\sum\lambda$ の形に見えるのは、PFH の一般式に 2 次項が存在しないからではなく、

$$ \frac{1}{2}\lambda_\text{last}\lambda_\text{LAT}H\ll\lambda_\text{SPF} \tag{1064.7} $$

として、潜在状態を経由する 2 次項を省略した表示になっているからです。

このことは、1059 で得た PMHF の DPF 項

$$ \frac{1}{2}\lambda_\text{IF,DPF}\lambda_\text{SM}\bigl((1-K_\text{SM,DPF})T+K_\text{SM,DPF}\tau\bigr) \tag{1064.8} $$

と比較すると分かりやすくなります。どちらも

「第1故障率 × 平均露出時間 × 第2故障率」

という同じ 2 次構造を持っています。違うのは、PFH では平均露出時間が評価区間 $H$ によって与えられ、PMHF ではそれが寿命 $T$ と PIR 周期 $\tau$ の組合せとして現れる点です。

要するに、規格に見える PFH の $\sum\lambda$ 式は、潜在状態を経由する二重故障経路が前景化されない簡略表示です。したがって、規格を素直に読む限り、PFH は SPF のみを足し合わせる量として受け取られます。しかし状態モデルを復元すると PFH 側にも 2 次項は現れ、そこで初めて PMHF の DPF 項と同じ数理構造が見えてきます。


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