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RISC-Vプロセッサの設計 (7) |
PCステージ
PCステージ(<PC>)を設計します。と言うとなじみがありませんね。一般には存在しないステージなので。以降ではステージ記号を次のように定義します。例:PCステージ:=<PC>
一般にはパイプライン図は<IF>から始まっています。例えば図540.1のように。PCレジスタは<IF>の入力レジスタとして描かれています。良く見ると、本来の<PC>の演算器や結果レジスタは折り曲げられて、窮屈な恰好をしています。
図540.2の黄色のステージ記号及び点線は弊社で追加しました。FDレジスタとは<IF>と<ID>の間のステージなので、<IF>の結果レジスタです。つまりFDレジスタの左側は全て<IF>です。この図でもPCレジスタは窮屈に折り曲げられています。
この図のように<IF>の中にPCレジスタが書かれています。これが変であることに気づかれたでしょうか。パイプラインプロセッサは、パイプラインレジスタにより、組み合わせ回路の結果を次々に受けていくバケツリレー式であり、本来ステージの内部は組み合わせ回路で構成され、レジスタは無いはずです。
それでは<IF>の入力である命令アドレスはどこのステージで生成されるのでしょうか?それが<PC>です。つまり一般の図ではPCは<IF>の入力レジスタのように描かれていますが、実は他のステージと同様、<PC>の結果レジスタです。こう考えるとパイプラインの各ステージが統一的に理解できます。
例えば分岐命令では分岐先アドレス計算をする必要があり、それは必ず<ID>の後になります。図540.2にもPC calculationとありますが、それがパイプライン中の2個目の<PC>です。そして分岐条件が確定した後に<IF>が実行されるので、<PC>は明示したほうが判りやすいです。
一般的に<PC>が無視される理由としては、有名な教科書がIF, ID, EX, MEM, WBの5段で書かれている、からなのかもしれませんが、本来は
<PC><IF><ID><EX><MA><WB>
の6段パイプです。このことは過去記事でも指摘しています。
次の質問です。<PC>の前のステージは何でしょうか?答えは<PC>です。分岐しない限り<PC>は次の<PC>を生成し、1サイクル毎に次々にストリームを生み出します。
一方、例えば分岐命令等のようにパイプラインの途中に<PC>が出現することがあり、複数現れる場合でも命令ストリームの開始PCの計算ですから、いきなり別の命令ストリームの<IF>が現れるよりは判りやすいと思います。無から有は湧いてきません。
割り込みや例外を考える時には一層重要です。割り込みレベルやマスクや例外の種類等の情報を総合して、まずPCがどうなるかを決定します。PCさえ確定すれば、後は<IF>以降のパイプラインを普通に流せば良いだけです。つまり常に<PC>が命令ストリームの起点となります。
本稿で述べたことはエンジニアとしては意識しなくても、設計できるし、見方を変えて設計が変わるわけではないので、哲学に属する話かもしれません。
しかし、設計思想として大事な話なので強調しています。この思想のメリットもあり、例えば<PC>においてPCアドレスを命令アドレスとして命令メモリに流し、<PC>と<IF>の間のクロックで命令アドレスをラッチし、<IF>として命令メモリからデータを流し、プロセッサは<IF>と<ID>の間のクロックで命令データをラッチする、というフローが一般的ですが、<PC>を<IF>の中に混ぜると<IF>が複雑になります。一方この考え方であれば、ラッチベースの動作がすっきりします。
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