Posts Tagged with "ISO 26262"

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アイテムの故障率(2)

posted by sakurai on May 16, 2016

並列アイテム

図2
図9.1 並列アイテムのRBD

並列アイテムとは、上図のように、RBDを書いたときにアイテムを構成するエレメントが並列になっている場合のアイテムです。この場合(1 out of n)は冗長性を持っており、全てのエレメントが故障しなければ、アイテムは故障しません。

このように、信頼度から考えると冗長が良いに決まっているのですが、2冗長でもコストが倍増することになります。従って、いかに冗長のコストを抑えるかが、良い設計の鍵となります。

この場合並列アイテムの信頼度は各エレメントの信頼度の和、と単純にはなりません。その理由は、各事象の確率の和が和事象の確率になるのは、各事象が排他の場合のみであることです。一般に各事象は独立であっても排他ではありません。

例えばエレメント1とエレメント2が99%の信頼度だとすれば、信頼度を加え合わせると0.99+0.99=1.98の確率というわけのわからない数字となります。言うまでもなく、確率は0から1の間の値の値を取るはずです。これはエレメント1とエレメント2が共に動作している確率のダブルカウントが原因なので、先の確率の和である1.98から同時に動作している確率0.99*0.99を引くと並列アイテムの信頼性が求められ、1.98-0.99*0.99=0.9999、99.99%となります。

これを一般化し、並列アイテムの信頼度は包除原理から、 \[ R_{item}(t)=\coprod_{i=1}^n R_i(t)=\sum_{i=1}^n R_i(t)-\sum_{i\lt j}^n R_i(t)\cdot R_j(t)+\cdots+(-1)^{n-1}\prod_{i=1}^n R_i(t)\tag{9.1} \]

のように複雑な式となるため、アイテムの不信頼度を考えたほうが楽です。すると、並列アイテムの不信頼度は全てのエレメントの不信頼度の積となるため、

並列アイテムの不信頼度の式: \[ F_{item}(t)=F_1(t)\cdot F_2(t)\cdot\cdots\cdot F_n(t)=\prod_{i=1}^n F_i(t)\tag{9.2} \]

であり、これはFTAの計算時に使用するため重要な式となります。

以降では教科書的に信頼性を求めることにし、(9.2)を信頼度で表わせば、 \[ F_{item}(t)=1-R_{item}(t)=\prod_{i=1}^n[1-R_i(t)]\tag{9.3} \]

従って並列アイテムの信頼度は各エレメントの故障率で表すことができ、 \[ R_{item}(t)=1-\prod_{i=1}^n[1-R_i(t)]=1-\prod_{i=1}^n(1-e^{-\lambda t})\tag{9.4} \]

となります。


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アイテムの故障率(1)

posted by sakurai on May 9, 2016

直列アイテム

図1
図8.1 直列アイテムのRBD

直列アイテムとは、上図のように、RBD(信頼性ブロック図)を書いたときにアイテムを構成するエレメントが直列になっている場合のアイテムです。この場合は冗長性を持たないため、どのひとつのエレメントが故障しても、それによりアイテムが故障すると考えます。この場合のアイテムの信頼度は各エレメントの信頼度の積となります。 \[ R_{item}(t)=R_1(t)\cdot R_2(t)\cdot\cdots\cdot R_n(t)=\prod_{i=1}^n R_i(t)\tag{8.1} \]

ここで、信頼度を故障率で表す(4.2)を用いれば、(8.2)となります。 \[ R_{item}(t)=e^{-\lambda_{item}t}=e^{-\lambda_1 t}\cdot e^{-\lambda_2 t}\cdot\cdots\cdot e^{-\lambda_n t} =e^{\sum_{i=1}^n-\lambda_i t}\tag{8.2} \]

従って、アイテムの故障率は(8.3)のように各エレメントの故障率の和で求められます。 \[ \therefore\lambda_{item}=\sum_{i=1}^n \lambda_i\tag{8.3} \]

教科書には何故か信頼度の式しか出てこないようですが、後でFTAの計算を行うときに不信頼度が重要となるため、ここで掲載しておきます。(8.1)に(2.5)を代入して、以下の(8.4)が得られます。

直列アイテムの不信頼度の式: \[ F_{item}(t)=1-\prod_{i=1}^n[1-F_i(t)]\tag{8.4} \]


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故障率(7)

posted by sakurai on April 27, 2016

不信頼度$F(t)$の近似式の誤差

故障率(5)において、故障率が定数$\lambda$である場合、信頼度$R(t)$と不信頼度$F(t)$は簡単化され、それぞれ以下の式により表されることを示しました。 \[ R(t)=e^{-\lambda t} \tag{5.2} \] \[ F(t)=1-R(t)=1-e^{-\lambda t} \tag{5.3} \]

ここで、指数関数をマクローリン展開を用いて近似式を導出してみます。不信頼度$F(t)$のマクローリン展開は \[ F(t)=1-e^{-\lambda t}=\lambda t-\frac{\lambda^2 t^2}{2}+\cdots \tag{7.1} \]

ですが、ここで、$\lambda t\ll1$という条件では2次以下の項が省略可能なほど小さいため、式(7.1)は、 \[ F(t)=1-e^{-\lambda t}\approx\lambda t,~\mbox{s.t.}~\lambda t\ll1 \tag{7.2} \]

となります。実際に故障率の違いによって、不信頼度$F(t)$が正確な値と近似式でどのくらいの誤差になるかを見てみましょう。以降は車両寿命$T_{lifetime}$は一定で100,000時間(=$10^5$時間)とします。

まず、ASIL-Dの目標値である故障率$\lambda$(PMHF)=10FITとします。10FITは$10^{-8}$[1/H]です。$\lambda T_{lifetime}$は$10^{-8}*10^{5}=10^{-3}$であり、車両寿命付近の誤差は0.050%とかなり良く一致しています(図7.1)。

図10
図7.1

次に、ASIL-B/Cの目標値である故障率$\lambda$(PMHF)=100FITとします。100FITは$10^{-7}$[1/H]です。$\lambda T_{lifetime}$は$10^{-7}*10^{5}=10^{-2}$であり、車両寿命付近の誤差は0.498%と良く一致しています(図7.2)。

図11
図7.2

次に、故障率$\lambda$(PMHF)=1,000FITとします。1,000FITは$10^{-6}$[1/H]です。$\lambda T_{lifetime}$は$10^{-6}*10^{5}=0.1$であり、このあたりでは$\lambda T_{lifetime}\ll 1$とは言えなくなってくるため、誤差がだいぶ目立ってくるようになります。車両寿命付近の誤差は4.838%と無視できなくなっています(図7.3)。

図7
図7.3

次に、故障率$\lambda$(PMHF)=10,000FITとします。10,000FITは$10^{-5}$[1/H]です。$\lambda T_{lifetime}$は$10^{-5}* 10^{5}=1$であり、$\lambda T_{lifetime}\approx 1$であるため、$t$が小さい時点以外は近似式は使用できません(図7.4)。

図8
図7.4

最後に、故障率$\lambda$(PMHF)=100,000FITとします。100,000FITは$10^{-4}$[1/H]となり、よほど$t$が小さい時点以外は近似式は使用できません(図7.5)。

図9
図7.5

それでは故障率がどれくらいの時に誤差が5%に収まるでしょうか?前述のように1,000FITの場合は車両寿命まで誤差が5%未満だったので、上の10,000FIT及び100,000FITの場合を調べたのが図7.6です。横軸は誤差を表し、縦軸は時間$t$を表します。

図12
図7.6

これでみると大体$\lambda t$が0.1未満のときに、車両寿命における近似値の誤差が5%未満となると思っておけばよさそうです。この誤差のことを本稿では「Exponentialの一次近似誤差」と呼ぶことにします。

エレメント単体の故障率については大方説明してきました。次回からはシステム(アイテム)の故障率の計算方法についてとなります。


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故障率(6)

posted by sakurai on April 13, 2016

和文は英文の後に続きます。

(English text comes here.)


平均故障率と瞬間故障率

故障率(1)において、Excel表によって良品数$v(t)$のグラフを作成する方法をご紹介しました。(1.2)は、現在の良品数に一定の率(=故障率)をかけたものが故障数で、それを現在の良品数から引いた数により、次の時間の良品数を表す、という意味でした。 \[ v(t+1)-v(t)=-\hat{\lambda}(t)\cdot v(t) \tag{1.2} \] 故障率(2)で示した以下の(2.4)により、信頼度$R(t)$も同様な形となります。 \[ R(t+1)-R(t)=-\hat{\lambda}(t)\cdot R(t) \tag{2.4} \]

一方、故障率(5)において、故障率を一定とした場合に信頼度$R(t)$の式は、(5.2)となることを示しました。 \[ R(t)=e^{-\lambda t} \tag{5.2} \]

ここで、(2.4)によるグラフと、(5.2)のグラフが同じになるかを調べようと思います。前者が平均故障率$\hat{\lambda}$で後者が瞬間故障率$\lambda$のグラフです。

グラフ3
図6.1 平均故障率($\hat{\lambda}=10\%$)と瞬間故障率($\lambda=10\%$)のグラフ

図6.1において、青が平均故障率$\hat{\lambda}=10\%$による信頼度、赤が瞬間故障率$\lambda=10\%$による信頼度です。2つのグラフはこのように、時間が進むにつれ次第に食い違いを見せます。同じ10%の故障率なのに、前者は一時間後に0.9になりますが、後者は0.90484となり、差が開いていきます。

この理由は文字どおり、前者が平均故障率で後者が瞬間故障率だからの違いによるものですが、逆に、一致するのはどういう値のときでしょうか?

図6.2は、両グラフが一致するときの信頼度のグラフで、平均故障率$\hat{\lambda}=10\%$に対して瞬間故障率は$\lambda=10.536\%$となっています。

グラフ4
図6.2 平均故障率($\hat{\lambda}=10\%$)と瞬間故障率($\lambda=10.536\%$)のグラフ

実は、現在値に比例して減少するのは収入とそれに対する支出も同じなのではないでしょうか。もちろん、収入が減っても食費のように減らせないものもあるかもしれませんが、それでも高い外食をしなくなったり、収入に応じた生活をするようになると思います。

一時間の平均故障率のグラフ(青)と、瞬間故障率のグラフ(赤)を定性的に比較すると、赤のグラフのほうは、月々の貯金残高で、次の月の支出を抑える生活なのに比べて、青のグラフのほうは、一年に一度しか貯金残高を確認せずに、年初の貯金で年末まで使ってしまう生活を表しているとも見えます。当然、見直す頻度が高いほうが浪費が少ないわけで、それが青と赤のグラフの差に反映されているのではないでしょうか。

グラフ5
図6.3 平均故障率と瞬間故障率の拡大図

お金の話が出てきましたが、実は、故障率の符号を反転すると、時間が経つほど現在価値に比例してお金が増えていく、つまりは複利の概念と同一だということがわかります。複利だと預けておけば勝手にお金が増えますが、故障率はマイナス符号が付いているので、時間が経つと減っていきます。幸いなのは減ってくると減る絶対値も減少してくることです。


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故障率(5)

posted by sakurai on April 5, 2016

和文は英文の後に続きます。

(English text comes here.)


故障率は定数

故障率は一般には定数として扱うことが多いです。その理由は以下のグラフのように、初期故障は製造試験により取り除かれ、一方摩耗故障については運用時間を限ることで、故障率が一定とみなせるためです。

図5.1
図1.1 バスタブカーブ

このグラフは浴槽の断面のような形をしていることからバスタブカーブと呼ばれます。

このように故障率$\lambda(t)$を一定値として扱うことが可能である場合、故障率$\lambda(t)$に関する積分は(5.1)のように簡単化されます。

\[ -\int_0^t\lambda dx=-\lambda\int_0^t dx=-\lambda t \tag{5.1} \]

これを用いて、信頼度$R(t)$を表す(2.11)と不信頼度$F(t)$を表す(2.12)はそれぞれ、(5.2)及び(5.3)のように表せます。 \[ R(t)=e^{-\lambda t} \tag{5.2} \] \[ F(t)=1-R(t)=1-e^{-\lambda t} \tag{5.3} \]

さらに故障密度関数(PDF)である$f(t)$の定義式(4.1)は、(4.4)を用いて(5.4)のように表せます。

\[ f(t)=R(t)\lambda(t)=\lambda e^{-\lambda t} \tag{5.4} \]

故障率が定数である分布は指数分布と呼ばれます。信頼性工学では他にもワイブル分布などがありますが、ISO26262では上記バスタブカーブの底の部分に限って議論すれば十分であるため、指数分布のみを対象とします。


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故障率(4)

posted by sakurai on March 31, 2016

和文は英文の後に続きます。

(English text comes here.)


CDFとPDFの関係

故障確率関数(Cumulative Distribution Function, CDF)$F(t)$が$t$で微分可能であるとき、故障密度関数(Probability Density Function, PDF)である$f(t)$は$F(t)$の導関数として(4.1)で定義されます。

故障密度関数の定義式: \[ f(t)\stackrel{def}{=}\frac{dF(t)}{dt} \tag{4.1} \]

従って、故障確率関数$F(t)$は故障密度関数$f(t)$を0からtまで積分して(4.2)のように表されます。 \[ \int_0^t f(x)dx=\Pr\{0\lt X_{item}\leq t\}=F(t)-F(0)=F(t) \tag{4.2} \]

故障率$\lambda(t)$と故障密度関数$f(t)$の関係を求めます。(2.5)の両辺を$t$で微分すれば、(4.3)となります。 \[ \frac{dF(t)}{dt}=-\frac{dR(t)}{dt} \tag{4.3} \]

(2.8)に対して、(4.3)及び(4.1)を代入すれば、故障率$\lambda(t)$と故障密度関数$f(t)$の関係が(4.4)のように求められます。 \[ \lambda(t)=\frac{f(t)}{R(t)} \tag{4.4} \]


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故障率(3)

posted by sakurai on March 22, 2016

和文は英文の後に続きます。

(English text comes here.)


故障率と確率

本来、信頼度や不信頼度は確率なので、今回は確率の式を用いて信頼度や不信頼度を導出します。 $X_{item}$をitemの無故障運転時間を表す確率変数とするとき、信頼度$R(t)$は時刻$t$において、アイテムがまだ故障していない確率なので、(3.1)で定義されます。

\[ R(t)\stackrel{def}{=}\Pr\{t\lt X_{item}\} \tag{3.1} \]

一方不信頼度$F(t)$は時刻$t$において、アイテムが既に故障している確率なので、(3.2)で定義されます。

\[ F(t)\stackrel{def}{=}\Pr\{X_{item}\leq t\} \tag{3.2} \]

区間$(t, t+\Delta t]$における平均故障率$\hat{\lambda}(t)$は、時刻$t$において故障していない条件下での区間$(t, t+\Delta t]$における故障確率を単位時間あたりに直したものですから、(3.3)と表されます。

\[ \hat{\lambda}(t)=\frac{1}{\Delta t} \cdot \Pr\{X_{item} \leq t+\Delta t~|~ t\lt X_{item}\} \tag{3.3} \]

ここで、ベイズの条件付き確率の公式は(3.4)です。

\[ \Pr\{A~|B\}=\frac{\Pr\{A \cap B\}}{\Pr\{B\}}, \quad \Pr\{B\}\gt 0 \tag{3.4} \]

また確率の和の公式(3.5)を次のように(3.6)と変形します。

\[ \Pr\{A \cup B\} = \Pr\{A\} + \Pr\{B\} - \Pr\{A \cap B\} \tag{3.5} \] \[ \Leftrightarrow \Pr\{A \cap B\} = \Pr\{A\} + \Pr\{B\} - \Pr\{A \cup B\} \tag{3.6} \]

(3.3)に(3.4)と(3.6)を適用すれば、平均故障率の(3.3)は(3.7)となります。

\[ \hat{\lambda}(t)=\frac{1}{\Delta t}\cdot \frac{\Pr\{t\lt X_{item}\cap X_{item}\leq t+\Delta t\}}{\Pr\{t\lt X_{item}\}} \]\[ =\frac{1}{\Delta t}\cdot \frac{\Pr\{t\lt X_{item}\}+\Pr\{X_{item}\leq t+\Delta t\}-\Pr\{t\lt X_{item}\cup X_{item}\leq t+\Delta t\}}{\Pr\{t\lt X_{item}\}} \]\[ =\frac{1}{\Delta t}\cdot \frac{R(t)+F(t+\Delta t)-1}{R(t)}=\frac{1}{\Delta t}\cdot \frac{R(t)-R(t+\Delta t)}{R(t)}\tag{3.7} \]

この平均故障率(3.7)に対して$\Delta t\rightarrow 0$の極限をとれば、平均故障率は瞬間故障率となり、(3.8)が得られます。 \[ -\lambda(t)=\frac{1}{R(t)} \frac{dR(t)}{dt}=\frac{d}{dt}\ln R(t) \tag{3.8} \]

以上から故障率(1)の(2.8)と同じ、故障率と信頼度の微分方程式(3.8)が求められました。従って故障率(1)の(2.9)から(2.12)と同様の論理展開により、信頼度$R(t)$と不信頼度$F(t)$が求められます。


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故障率(2)

posted by sakurai on March 16, 2016

和文は英文の後に続きます。

(English text comes here.)


信頼度と故障率の関係

前回は簡単にするために平均故障率は定数としましたが、一般的には故障率は時間の関数であるため、(1.1)は(2.1)と表されます。 \[ v(t+1)-v(t)=-\hat{\lambda}(t)\cdot v(t) \tag{2.1} \]

さて、「信頼度」はJISにより、「アイテムが、与えられた条件で規定の期間中, 要求された機能を果たす確率」と定義されています。これにより、時刻$t$において、アイテムとしての機能を果たす確率=信頼度$R(t)$は、良品数$v(t)$を$t=0$のときの部品数$v(0)=N$で割ったもので定義され、(2.2)と表されます。

信頼度の定義式: \[ R(t) \stackrel{def}{=} \frac{v(t)}{N} \tag{2.2} \]

(2.1)の両辺を$N$で割ると(2.3)となります。 \[ \frac{v(t+1)}{N}-\frac{v(t)}{N}=-\hat{\lambda}(t)\cdot \frac{v(t)}{N} \tag{2.3} \]

この(2.3)に、信頼度$R(t)$の(2.2)を適用すれば、(2.4)が求められます。 \[ R(t+1)-R(t)=-\hat{\lambda}(t)\cdot R(t) \tag{2.4} \]

さて、ここで1から信頼度$R(t)$を引いた値は不信頼度$F(t)$と呼ばれ、時刻$t$においてアイテムが故障している確率を意味します。

不信頼度の定義式: \[ F(t) \stackrel{def}{=} 1-R(t) \tag{2.5} \]

「信頼性」は一般的に良く知られている言葉ですが、信頼度や不信頼度は耳慣れない用語かもしれません。しかし、不信頼度はアイテムが故障している状態を表す大変重要な用語ですので、ぜひ慣れて頂きたいと思います。不信頼度は累積故障確率、故障関数、累積分布関数(Cumulative Distribution Function, CDF)等、いろいろな名前で呼ばれることがあります。

信頼度と不信頼度の導出

(2.4)から平均故障率と信頼度との関係が見えてきました。ここで、一時間後ではなく、$\Delta t$時間後を考えます。この$\Delta t$は微小時間間隔を意味します。これにより、時間間隔$[t, \Delta t)$において(2.4)左辺は(2.6)となります。 \[ \frac{1}{\Delta t}\cdot[R(t+\Delta t)-R(t)]=-\hat{\lambda}(t)\cdot R(t) \tag{2.6} \]

(2.6)において$\Delta t \rightarrow 0$という極限をとれば、平均故障率は瞬間故障率となり、(2.7)となります。 \[ \lim_{\Delta t \to 0} \frac{1}{\Delta t}\cdot[R(t+\Delta t)-R(t)]=\frac{dR(t)}{dt}=-\lambda(t)\cdot R(t) \tag{2.7} \]

(2.7)は$R(t)$に関する微分方程式です。これは信頼度と故障率の関係を示しているため、移項して故障率の式に変形すれば、(2.8)となります。 \[ -\lambda(t)=\frac{1}{R(t)} \frac{dR(t)}{dt}=\frac{d}{dt}\ln R(t) \tag{2.8} \]

よって、(2.8)の両辺を0から$t$まで積分すれば、(2.9)が求められます。 \[ -\int_{0}^{t}\lambda(x)dx=\ln R(t)+C \tag{2.9} \] さらにこれを指数の形に変形すれば、$R(t)$に関する(2.10)となります。 \[ R(t)=e^{-\int_{0}^{t}\lambda(x)dx-C} \tag{2.10} \]

初期状態$t=0$では故障は無いと仮定していることから、$R(0)=1$です。これを(2.10)に適用すると、積分定数$C$は$C=0$と求められます。これを(2.10)に戻せば、(2.11)が得られます。

信頼度の式: \[ R(t)=e^{-\int_{0}^{t}\lambda(x)dx} \tag{2.11} \]

以上から信頼度$R(t)$を求めることができました。これにより、(2.11)を(2.5)に代入すれば不信頼度$F(t)$が(2.12)のように求められます。

不信頼度の式: \[ F(t)=1-R(t)=1-e^{-\int_{0}^{t}\lambda(x)dx} \tag{2.12} \]


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故障率(1)

posted by sakurai on March 8, 2016

和文は英文の後に続きます。

(English text comes here.)


ISO26262における故障率

ISO26262は自動車分野向けの電気・電子システム(Electrical and/or Electronic Systems, E/E Systems)に関する機能安全規格です。機能安全とは、本来の機構に加えて安全機構を設け、リスクを低減し安全を確保するという考え方です。ISO26262はこれに従い、車載の電気・電子システムが万一故障した場合に、死傷事故などの危険な事象から人間を守ることを目的とします。

本規格では、安全性を損なう故障(*1)にはシステマティック故障とランダムハードウェア故障の2種類があると考えます。システマティック故障とは、例えばソフトウェアのバグのように特定の状況で必ず発生する故障のことです。ランダムハードウェア故障とは、電子部品の故障に見られるように、部品の様々な劣化メカニズムにより時間的にランダムに発生する故障のことです。FSマイクロ株式会社は、このランダムハードウェア故障を専門としています。

このブログでは、ハードウェア開発にとって重要なランダムハードウェア故障の説明の第一歩として、「故障率とは何か」から始めます。ISO26262においては、故障率の定義を理解することは大変重要です。

故障率の定義

ISO26262では、ECU(Electronic Control Unit=車載コンピュータ)等の安全性の論証の対象となるシステムをアイテム(*2)と呼びます。また、このブログでは故障した部品を不良品と呼び、故障していない部品を良品と呼ぶことにします。故障率の定義式を導出するため、アイテムは複数個の部品から構成されるものとし、初期状態で全ての部品が動作していて、全く故障が無いものと仮定します。この仮定において、故障率とは、単位時間あたりに故障する不良品数の良品数に対する割合であり、(1.1)で表されます。

この(1.1)を説明すると、時刻$t$において良品数が$v(t)$であったとき、1時間後の時刻$t+1$までに新たに故障する個数(=不良品数)の、良品数$v(t)$に対する割合が故障率$\hat{\lambda}$となります。(1.1)の左辺は1時間あたりの良品数の減少分を表し、それが右辺において、時刻$t$における良品数$v(t)$に比例することを意味しています。この比例定数が時刻$t$から$t+1$までの1時間の平均故障率です。

故障率の定義式: \[ v(t+1)-v(t) = - \hat{\lambda} \cdot v(t) \tag{1.1} \]

故障率の実際

故障率を例えば10%とします。図1.1では、時刻$t=0$のときに100個の部品からなるアイテムがどのように故障していくかを1時間毎のグラフで表しています。

最初に100個の部品があり、1時間後には、このうちの10%の10個が故障する(不良品数=10)ので良品数は90個となります。さらに次の1時間後には、90個の部品のうち10%の9個が故障する(不良品数=9)ので良品数は81個となります(図1.1)。

図1
図1.1 故障率のグラフ

定義で述べたとおり、不良品数は時刻$t$における良品数$v(t)$に比例します。もし不良品数が総数に比例するのであれば、以下のような線形のグラフになりますが、これは故障率とは異なります(図1.2)。

図1.2
図1.2 誤った故障率のグラフ

この図1.1及び図1.2の2つのグラフを算出式の違いによって比較してみます。

図1.1のグラフの算出式は、(1.1)の$v(t)$を移項した(1.2)です。 \[ v(t+1) = v(t) - \hat{\lambda} \cdot v(t) \tag{1.2} \]

この(1.2)については、時刻$t$の良品数$v(t)$に一定の率(=故障率)をかけたものが不良品数$\hat{\lambda} \cdot v(t)$です。時刻$t$の良品数$v(t)$から不良品数$\hat{\lambda} \cdot v(t)$を引いた数が、次の1時間後の良品数$v(t+1)$を表します。

図1.2のグラフの算出式は(1.3)です。 \[ v(t+1) = v(t) - \hat{\lambda} \cdot N \tag{1.3} \]

この(1.3)については、時刻$t=0$の良品数$N$に一定の率($\neq$故障率)をかけたものが不良品数$\hat{\lambda} \cdot N$です。時刻$t$の良品数$v(t)$から不良品数$\hat{\lambda} \cdot N$を引いた数が、次の1時間後の良品数$v(t+1)$を表します。

(1.2)と(1.3)を比較してみると、毎回の不良品数を算出する際に、(1.3)は当初の良品数$N$を記憶していなければなりません。一方、(1.2)は算出する際の値しか使っていないため、メモリレス(無記憶性)の性質を持ちます。

*1故障(1.39)
*2アイテム(1.69)


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