Posts Issued in April, 2016

故障率(7)

posted by sakurai on April 27, 2016

不信頼度$F(t)$の近似式の誤差

故障率(5)において、故障率が定数$\lambda$である場合、信頼度$R(t)$と不信頼度$F(t)$は簡単化され、それぞれ以下の式により表されることを示しました。 \[ R(t)=e^{-\lambda t} \tag{5.2} \] \[ F(t)=1-R(t)=1-e^{-\lambda t} \tag{5.3} \]

ここで、指数関数をマクローリン展開を用いて近似式を導出してみます。不信頼度$F(t)$のマクローリン展開は \[ F(t)=1-e^{-\lambda t}=\lambda t-\frac{\lambda^2 t^2}{2}+\cdots \tag{7.1} \]

ですが、ここで、$\lambda t\ll1$という条件では2次以下の項が省略可能なほど小さいため、式(7.1)は、 \[ F(t)=1-e^{-\lambda t}\approx\lambda t,~\mbox{s.t.}~\lambda t\ll1 \tag{7.2} \]

となります。実際に故障率の違いによって、不信頼度$F(t)$が正確な値と近似式でどのくらいの誤差になるかを見てみましょう。以降は車両寿命$T_{lifetime}$は一定で100,000時間(=$10^5$時間)とします。

まず、ASIL-Dの目標値である故障率$\lambda$(PMHF)=10FITとします。10FITは$10^{-8}$[1/H]です。$\lambda T_{lifetime}$は$10^{-8}*10^{5}=10^{-3}$であり、車両寿命付近の誤差は0.050%とかなり良く一致しています(図7.1)。

図10
図7.1

次に、ASIL-B/Cの目標値である故障率$\lambda$(PMHF)=100FITとします。100FITは$10^{-7}$[1/H]です。$\lambda T_{lifetime}$は$10^{-7}*10^{5}=10^{-2}$であり、車両寿命付近の誤差は0.498%と良く一致しています(図7.2)。

図11
図7.2

次に、故障率$\lambda$(PMHF)=1,000FITとします。1,000FITは$10^{-6}$[1/H]です。$\lambda T_{lifetime}$は$10^{-6}*10^{5}=0.1$であり、このあたりでは$\lambda T_{lifetime}\ll 1$とは言えなくなってくるため、誤差がだいぶ目立ってくるようになります。車両寿命付近の誤差は4.838%と無視できなくなっています(図7.3)。

図7
図7.3

次に、故障率$\lambda$(PMHF)=10,000FITとします。10,000FITは$10^{-5}$[1/H]です。$\lambda T_{lifetime}$は$10^{-5}* 10^{5}=1$であり、$\lambda T_{lifetime}\approx 1$であるため、$t$が小さい時点以外は近似式は使用できません(図7.4)。

図8
図7.4

最後に、故障率$\lambda$(PMHF)=100,000FITとします。100,000FITは$10^{-4}$[1/H]となり、よほど$t$が小さい時点以外は近似式は使用できません(図7.5)。

図9
図7.5

それでは故障率がどれくらいの時に誤差が5%に収まるでしょうか?前述のように1,000FITの場合は車両寿命まで誤差が5%未満だったので、上の10,000FIT及び100,000FITの場合を調べたのが図7.6です。横軸は誤差を表し、縦軸は時間$t$を表します。

図12
図7.6

これでみると大体$\lambda t$が0.1未満のときに、車両寿命における近似値の誤差が5%未満となると思っておけばよさそうです。この誤差のことを本稿では「Exponentialの一次近似誤差」と呼ぶことにします。

エレメント単体の故障率については大方説明してきました。次回からはシステム(アイテム)の故障率の計算方法についてとなります。


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故障率(6)

posted by sakurai on April 13, 2016

和文は英文の後に続きます。

(English text comes here.)


平均故障率と瞬間故障率

故障率(1)において、Excel表によって良品数$v(t)$のグラフを作成する方法をご紹介しました。(1.2)は、現在の良品数に一定の率(=故障率)をかけたものが故障数で、それを現在の良品数から引いた数により、次の時間の良品数を表す、という意味でした。 \[ v(t+1)-v(t)=-\hat{\lambda}(t)\cdot v(t) \tag{1.2} \] 故障率(2)で示した以下の(2.4)により、信頼度$R(t)$も同様な形となります。 \[ R(t+1)-R(t)=-\hat{\lambda}(t)\cdot R(t) \tag{2.4} \]

一方、故障率(5)において、故障率を一定とした場合に信頼度$R(t)$の式は、(5.2)となることを示しました。 \[ R(t)=e^{-\lambda t} \tag{5.2} \]

ここで、(2.4)によるグラフと、(5.2)のグラフが同じになるかを調べようと思います。前者が平均故障率$\hat{\lambda}$で後者が瞬間故障率$\lambda$のグラフです。

グラフ3
図6.1 平均故障率($\hat{\lambda}=10\%$)と瞬間故障率($\lambda=10\%$)のグラフ

図6.1において、青が平均故障率$\hat{\lambda}=10\%$による信頼度、赤が瞬間故障率$\lambda=10\%$による信頼度です。2つのグラフはこのように、時間が進むにつれ次第に食い違いを見せます。同じ10%の故障率なのに、前者は一時間後に0.9になりますが、後者は0.90484となり、差が開いていきます。

この理由は文字どおり、前者が平均故障率で後者が瞬間故障率だからの違いによるものですが、逆に、一致するのはどういう値のときでしょうか?

図6.2は、両グラフが一致するときの信頼度のグラフで、平均故障率$\hat{\lambda}=10\%$に対して瞬間故障率は$\lambda=10.536\%$となっています。

グラフ4
図6.2 平均故障率($\hat{\lambda}=10\%$)と瞬間故障率($\lambda=10.536\%$)のグラフ

実は、現在値に比例して減少するのは収入とそれに対する支出も同じなのではないでしょうか。もちろん、収入が減っても食費のように減らせないものもあるかもしれませんが、それでも高い外食をしなくなったり、収入に応じた生活をするようになると思います。

一時間の平均故障率のグラフ(青)と、瞬間故障率のグラフ(赤)を定性的に比較すると、赤のグラフのほうは、月々の貯金残高で、次の月の支出を抑える生活なのに比べて、青のグラフのほうは、一年に一度しか貯金残高を確認せずに、年初の貯金で年末まで使ってしまう生活を表しているとも見えます。当然、見直す頻度が高いほうが浪費が少ないわけで、それが青と赤のグラフの差に反映されているのではないでしょうか。

グラフ5
図6.3 平均故障率と瞬間故障率の拡大図

お金の話が出てきましたが、実は、故障率の符号を反転すると、時間が経つほど現在価値に比例してお金が増えていく、つまりは複利の概念と同一だということがわかります。複利だと預けておけば勝手にお金が増えますが、故障率はマイナス符号が付いているので、時間が経つと減っていきます。幸いなのは減ってくると減る絶対値も減少してくることです。


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故障率(5)

posted by sakurai on April 5, 2016

和文は英文の後に続きます。

(English text comes here.)


故障率は定数

故障率は一般には定数として扱うことが多いです。その理由は以下のグラフのように、初期故障は製造試験により取り除かれ、一方摩耗故障については運用時間を限ることで、故障率が一定とみなせるためです。

図5.1
図1.1 バスタブカーブ

このグラフは浴槽の断面のような形をしていることからバスタブカーブと呼ばれます。

このように故障率$\lambda(t)$を一定値として扱うことが可能である場合、故障率$\lambda(t)$に関する積分は(5.1)のように簡単化されます。

\[ -\int_0^t\lambda dx=-\lambda\int_0^t dx=-\lambda t \tag{5.1} \]

これを用いて、信頼度$R(t)$を表す(2.11)と不信頼度$F(t)$を表す(2.12)はそれぞれ、(5.2)及び(5.3)のように表せます。 \[ R(t)=e^{-\lambda t} \tag{5.2} \] \[ F(t)=1-R(t)=1-e^{-\lambda t} \tag{5.3} \]

さらに故障密度関数(PDF)である$f(t)$の定義式(4.1)は、(4.4)を用いて(5.4)のように表せます。

\[ f(t)=R(t)\lambda(t)=\lambda e^{-\lambda t} \tag{5.4} \]

故障率が定数である分布は指数分布と呼ばれます。信頼性工学では他にもワイブル分布などがありますが、ISO26262では上記バスタブカーブの底の部分に限って議論すれば十分であるため、指数分布のみを対象とします。


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