Posts Issued in March, 2024

新方式によるPUAの導出 (2)

posted by sakurai on March 15, 2024 #755

さて、過去記事でKパラメータは条件付き確率ではなく、アーキテクチャ固有の値であると仮定したのには理由があり、2つの問題があるからでした。

問題1
しかしながら、Kパラメータ($K_{\mathrm{FMC,MPF}}$及び$K_{\mathrm{FMC,RF}}$)が条件付き確率として一定だと矛盾が起きます。抑止条件が確率的に作用することにより、例えば1回目にはVSG抑止されたフォールトが、2回目にはVSG抑止されないことが起こりえます。あるいは1回目にはリペアされたフォールトが2回目にはリペアされないことが起こりえます。検出が確率的になされるからとはいえ、同じ故障が検出されたりされなかったりするのは、合理性がありません。

これはIFのフォールトについてのステートメントなので、SMに書き換えます。

問題1
しかしながら、Kパラメータ($K_{\mathrm{MPF}}$)が条件付き確率として一定だと矛盾が起きます。検出が確率的に作用することにより、例えば1回目には検出されリペアされたフォールトが、2回目には検出されないことが起こりえます。検出が確率的になされるからとはいえ、同じ故障が検出されたりされなかったりするのは、合理性がありません。

という問題は、フォールト検出はアーキテクチャに無関係に確率的に行われるとすれば、問題ありません。

次の問題は、

問題2
次に、例えば故障検出率$K_{\mathrm{FMC,MPF}}$について考えると、長時間が経ち故障検出を長く続ける場合を考えます。検出されるフォールトは全量リペアされるのに比べて、検出されないフォールトはどんどん溜まって行き、不信頼度は上昇し続けます。従って、新たにフォールトするうちの検出される部分の比率が高まりそうであるのに、条件付き確率として一定値であると感覚に反します。

これはSMのフォールトについてのステートメントなのでそのままです。

これも検出は確率的に行われるとすれば、問題ありません。検出される部分の比が高まるように思うのは、アーキテクチャ的な構造を前提としているからであり、検出が完全に確率的だとすれば、特に矛盾はありません。

なお、本稿はRAMS 2025に投稿予定のため一部を秘匿しています。


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新方式によるPUAの導出

posted by sakurai on March 14, 2024 #754

以下は全てSMについての議論とします。Kパラメータは条件付き確率ではなく、アーキテクチャ固有の値だと仮定してきました。そこでの議論のうち、$K_\text{RF}$すなわち、1st SMによるVSG preventionはSMについては1として無視して良いです。

しかしながら、以下の証明のように、アーキテクチャ固有の値ではなく、条件付き確率でも同様な結果が得られることが分かります。まず、信頼度と故障率を定義どおり、 $$ \begin{eqnarray} R(t)&=&\Pr\{\text{up at }t\}\\ \lambda dt&=&\Pr\{\text{failed in }(t, t+dt)\hspace{1pt}|\hspace{1pt}\text{up at }t\} \end{eqnarray}\tag{754.1} $$ とし、2nd SMによる検出率$K$を $$ K_\text{MPF}=\Pr\{\text{detected}\hspace{1pt}|\hspace{1pt}\text{failed in }(t, t+dt)\cap\text{up at }t\}\tag{754.2} $$ と仮定します。すると、微小時間間隔$(t, t+dt)$における不検出部分の故障確率は、 $$ \Pr\{\text{undetected}\cap\text{failed in }(t, t+dt)\cap\text{up at }t\}=(1-K_\text{MPF})R(t)\lambda dt=(1-K_\text{MPF})f(t)dt\tag{754.3} $$ よって、0から$t$まで積分すれば、$t$における不検出不信頼度は、 $$ \int_0^t(1-K_\text{MPF})f(s)ds=(1-K_\text{MPF})F(t)\tag{754.4} $$ 他方、微小時間間隔$(t, t+dt)$における検出部分の故障確率は、 $$ \Pr\{\text{detected}\cap\text{failed in }(t, t+dt)\cap\text{up at }t\}=K_\text{MPF}R(t)\lambda dt=K_\text{MPF}f(t)dt\tag{754.5} $$ よって、0から$u\in(0, \tau)$まで積分すれば、$u=t\bmod\tau$における検出不信頼度、すなわち修理確率は、 $$ \int_0^uK_\text{MPF}f(s)ds=K_\text{MPF}F(u), u=t\bmod\tau\tag{754.6} $$ 最後に、検出と不検出は背反事象であり確率は加えることができるため、全確率の定理より修理を考慮した不信頼度、すなわち不稼働度は $$ Q(t)=(1-K_\text{MPF})F(t)+K_\text{MPF}F(u), u=t\bmod\tau\tag{754.7} $$ と求まります。

注意:
ただしこれは全ての区間で修理量が同じという前提に立っています。最新の研究ではこれは近似値だと判明しており、今後この点についてIEEE学会投稿する予定です。また、このブログでも深堀し、一部について開示します。

なお、本稿はRAMS 2025に投稿予定のため一部を秘匿しています。


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PUA関連論文Köhler2021 (5)

posted by sakurai on March 13, 2024 #753

論文$\dagger$の続きです。

4.1 ISO 26262 Approachにおいて誤りをもうひとつ見つけました。

論文(7)式において $$ M_\text{PMHF}=\frac{F(T_\text{L})}{T_\text{L}}=\frac{1-e^{-(1-DC)\lambda T_\text{L}}}{T_\text{L}}\approx\frac{(1-DC)\lambda T_\text{L}}{T_\text{L}}=(1-DC)\lambda\tag{753.1} $$ であると書いています。ここでの誤りは、不検出故障による不信頼度を $$ 1-e^{-(1-DC)\lambda T_\text{L}}\tag{753.2} $$ としたところです。本来の故障率$\lambda$が検出動作によりみかけの故障率$(1-DC)\lambda$になるので、時刻$T_\text{L}$までの不信頼度$F(T_\text{L})$における$\lambda$を$(1-DC)\lambda$で置き換えた(2)式となるように思われます。

しかしながらこれは誤りであり、以下に証明します。まず$t$における不検出不信頼度の正しい式を求めると、 $$ \begin{eqnarray} R(t)&=&\Pr\{\text{up at }t\}\\ \lambda dt&=&\Pr\{\text{failed in }(t, t+dt)|\text{up at }t\}\\ DC&=&\Pr\{\text{detected}|\text{failed in }(t, t+dt)\cap\text{up at }t\}\tag{753.3} \end{eqnarray} $$ これらより、微小時間間隔$(t, t+dt)$における不検出部分の故障確率は、 $$ \Pr\{\text{undetected}\cap\text{failed in }(t, t+dt)\cap\text{up at }t\}=(1-DC)R(t)\lambda dt=(1-DC)f(t)dt\tag{753.4} $$ よって、0から$t$まで積分すれば、$t$における不検出不信頼度は、 $$ \int_0^t(1-DC)f(s)ds=(1-DC)F(t)=(1-DC)(1-e^{-\lambda t})\tag{753.5} $$ であり、(2)のように $$ 1-e^{-(1-DC)\lambda t}\tag{753.6} $$ ではありません。ただし、$\lambda t\ll1$の場合にはいずれも同じ値$(1-DC)\lambda t$に近似されます。

ではどこが誤りかと言えば、 $$ \lambda'=(1-DC)\lambda\tag{753.7} $$ と置き換えると分かりますが、(4)において、$\lambda'$を用いれば、 $$ (4)=(1-DC)R(t)\lambda dt=\lambda'R(t)dt=\lambda'e^{-\lambda t}dt\tag{753.8} $$ (8)の右辺が$\lambda'e^{-\lambda' t}dt$であれば(6)が成立しますが、そうではないので成立しません。近似であると断ってから使用すればまだしも、この著者は安易にこの導出$\ddagger$を使用しているため注意が必要です。


$\dagger$A. Köhler and B. Bertsche, “Cyclisation of Safety Diagnoses: Influence on the Evaluation of Fault Metrics,” 2021 Anuu. Rel. Maint. Symp. (RAMS), pp 1–7, Orlando, FL, USA, (Jan.) 2021.

$\ddagger$みかけの故障率が$(1-DC)\lambda$である場合に、$1-e^{-(1-DC)\lambda t}$となると誤解して不信頼度を導出すること


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PUA関連論文Hokstad1997 (2)

posted by sakurai on March 12, 2024 #752

論文$\dagger$の続きです。

モデルDにおいては、 $$ I(t)=f(t-i\tau),\ t\in(i\tau, (i+1)\tau), i=0, 1, 2, ... $$ これは周期関数としては正しいですが、DC=100%として100%修理されていることに改善の余地があります本来は2nd SMによる検出可否に分解し、露出時間は検出可の部分は$\tau$とし、不可の部分は車両寿命とすべきです。検出可否を考慮に入れれば、 $$ q(t)=(1-K)f(t)+Kf(u), u=t\bmod \tau $$ となりPUDの一般式となります。

また、著者によるmean number of failure (cumulative intensity)は、 $$ \require{color} \definecolor{pink}{rgb}{1.0,0.8,1.0} M(t)=\colorbox{pink}{$i$}F(\tau)+F(t-i\tau),\ t\in(i\tau, (i+1)\tau), i=0, 1, 2, ... $$ となっており、初項の$iF(\tau)$に疑問があります。

初項の導出の理由を示す部分を見てみましょう。原文では$n$となっていますが$i$に変えたのは、我々は$n=\lfloor t/\tau\rfloor$として使用しているためです。

As a last feature of model D observe that the mean number of failures up to time $t$ equals
モデルDの最後の特徴として、時刻$t$までの平均故障数が次に等しいことがわかる $$ M(t) = n\cdot F(\tau)+F(t - n\cdot\tau),\ \text{for }n\tau \le t\lt(n + 1)\tau. $$ In each interval there is either one failure or no failure, and of course $M(\tau)=F(\tau)=1-R(\tau)$ equals the probability of having one failure in the interval. In particular $M(n\cdot\tau)=n\cdot F(\tau)$, which is the relation to be used for estimating $i_{\tau}$.
各区間には故障が1回あるかないかであり、当然$M( \tau)=F( \tau)=1-R( \tau)$ はその区間に故障が1回ある確率に等しい。特に、$M(n\cdot \tau)=n\cdot F(\tau)$は、$i_{\tau}$を推定するための関係式である。

一区間の故障確率は、$M(\tau)=F(\tau)$であるから、$i\tau$における故障確率は$M(i\tau)=iF(\tau)$だとこのとですが、論文の最後のせいか十分な検討無しに書いたように思われます。そもそも$M(t)$はunavailabilityであるため、1を超えることはないはずです。

検証のためにChatGPTにより$M(t)$をグラフ化すると、

図%%.1
図752.1 $M(t)=iF(\tau)+F(t-i\tau), i=\text{floor}(t/\tau)$

となり、明らかにおかしいです。$M(t)$は我々の記法によれば、PUAであり、 $$ Q(t)=(1-K)F(t)+KF(u), u=t\bmod \tau $$ と書くことができます。

本論文は、様々なモデルや関数の定義を与える良い論文ではあるものの、昔の論文のせいかグラフ図が手書きで不正確です。上記の誤りがあるだけでなく、PUAの一般式も求められていません。


$\dagger$ P. Hokstad, “The Failure Intensity Process and the Formulation of Reliability and Maintenance Models,” Rel. Eng. Syst. Safety, vol. 58, no. 1, pp 69–82, (Oct.) 1997.


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PUA関連論文Hokstad1997

posted by sakurai on March 11, 2024 #751

PUA関連論文シリーズ最後は以下の論文です。

P. Hokstad, “The Failure Intensity Process and the Formulation of Reliability and Maintenance Models,” Rel. Eng. Syst. Safety, vol. 58, no. 1, pp 69–82, (Oct.) 1997.

以降翻訳はDeepLによるものです。まずアブストラクトを示します。

故障事象モデルの定式化に対する統一的なアプローチを示す。これは、修理可能なものと修理不可能なもの、予防保全と是正保全の両方を分析するための共通の枠組みを提供するものであり、休止故障のあるものにも適用できる。提案された手順は、一連のグラフによってサポートされ、それによって、固有の信頼性(すなわち、ハザード率)と保守・修理方針の両方の重要性を明らかにする。様々な故障強度の概念の定義/解釈は、このアプローチの基本である。したがって、これらの強度間の相互関係を検討し、それによってこれらの概念の明確化にも貢献する。これらの概念の中で最も基本的なものである故障強度過程は、計数過程(マーチンゲール)で使用されるものであり、その時点までの品目の履歴が与えられた時点tにおける故障率である。提案するアプローチは、いくつかの標準的な信頼性とメンテナンスのモデルを考えることによって説明される。

いろいろな不稼働度モデルが紹介されていますが、我々の関心があるのは定期検査を持つModel Dと呼ばれるモデルです。

Model D (休眠故障と定期的なテストを伴うアイテム)

一方、著者によれば、様々な確率過程は以下の定義となります。

関数名 関数 論文関数名 論文関数 我々の関数名 我々の関数
非修理系 reliability $R(t)$ 修理系 availability $A(t)$ availability $A(t)$
PDF (probability density function) $f(t)$ failure intensity,
mean intensity,
unconditional intensity,
ROCOF(Rate of OCcurrence Of Failure)
$I(t)$ PUD (point unavailability density) $q(t)$
CDF (cumulative distribution function) $F(t)$ mean number of failure,
cumulative intensity
$M(t)$ PUA (point unavailability) $Q(t)$
hazard rate $\lambda(t)$ conditional intensity $I_{up}(t)$ Veseley's failure rate $\lambda_v(t)$

Average intensity、もしくはAROCOF (Average Rate of OCcurrence Of Failure)は、 $$ i_\tau=\frac{1}{\tau}\int_0^\tau I(t)dt=\frac{1}{\tau}M(\tau) $$ 我々の定義では、$I(t)$は$q(t)$と、$M(t)$は$Q(t)$と定義します。元になる非修理系において一般的な記法であるPDF=$f(t)$、その積分であるCDF=$F(t)$を踏襲するなら$i$や$I$の大文字小文字は逆にして欲しかったところです。

我々は特に車両寿命間の平均PUDが知りたいため、PFHも同様の定義ですが、 $$ M_\text{PMHF}=\frac{1}{T_\text{lifetime}}\int_0^{T_\text{lifetime}} q(t)dt=\frac{1}{T_\text{lifetime}}Q(T_\text{lifetime})=i_{T_\text{lifetime}} $$ が求めたい平均不稼働密度です。


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PUA関連論文Sobral2016

posted by sakurai on March 8, 2024 #750

次は以下の論文です。

J. Sobral, L. Ferreira, “Availability of Fire Pumping Systems Under Periodic Inspection,” J. Build. Eng., vol. 8, pp 285–291, (Dec.) 2016.

以降翻訳はDeepLによるものです。まずアブストラクトを示します。

消防ポンプシステムは、住宅、商業施設、工業施設など、あらゆる建物の消火に使用されている。これらのシステムは、建物保護の目的で設置された手動または自動装置に必要な水流と圧力を供給する役割を担っている。従って、望ましくない火災が発生した場合に、その可用性を保証することは非常に重要である。本稿では、消防ポンプ設備が定期的な点検や試験を受けた場合の可用性に焦点を当てる。これらの検査や試験は、システムの挙動を観察し、コンポーネントやサブシステムの潜在的な隠れた故障を検出するために実施される。本論文で提案する方法論は、第一段階として、重要な機器の要求時に故障が発生する確率を分析し、この重要な段階の成功確率を分析することに焦点を当てている。また、消防ポンプシステムの望ましい可用性に対する点検・試験頻度の影響も示す。

適用分野はだいぶ異なりますが、論文の(2)式は瞬間不稼働度を求めるもので、

$$ Q(T)=\frac{1}{T}\int_0^Tq(t)dt $$ と書かれています。これは我々のPUAと同じで、その場合$q(t)$はPUDということになります。

以降では本論文がPMHFをどのように導出するかを見ていきます。

$$ Q(\tau)=\frac{1}{\tau}\int_0^\tau(\tau-t)f(t)dt=\frac{1}{\tau}\int_0^\tau F(t)dt $$ ここで、F(t)を導出しており、$\tau-t$はダウンタイム幅と解釈されますが、式が誤っているようです。本来$f(t)$を積分すると$F(t)$になるため、積分せずに$F(t)$となることは改善の余地がありそうです。ただしavailabilityとしてsawtooth波形を掲載しているのは正しいので、その後の議論がおかしくなっているようです。

式はこの程度しか掲載されておらず、著者はPUAの一般式を導出していません。従ってこの論文の分析はここまでです。


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2月の検索結果

posted by sakurai on March 7, 2024 #749

弊社コンテンツの2月の検索結果です。

表749.1 上昇率上位のページ
タイトル クリック数
1st Editionと2nd Editionとの相違点 (Part 10) +40
ASILデコンポジション +29
SPFM, LFM, PMHFの計算法の例 +22

表749.2 パフォーマンス上位のページ
タイトル クリック数
1st Editionと2nd Editionとの相違点 (Part 10) 203
ASILデコンポジション 152
機能安全用語集 128

表749.3 上昇率上位のクエリ
クエリ クリック数
FTTI +27
ASILデコンポジション +10
FTTI FHTI 違い +10

表749.4 パフォーマンス上位のクエリ
クエリ クリック数
FTTI 84
PMHF 35
SPFM 28


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PUA関連論文Köhler2021 (4)

posted by sakurai on March 6, 2024 #748

論文$\dagger$の続きです。

4.3 Unavailability Approach

ISO 26262は修理が前提であるため、不信頼度ではなく4.3の修理を考慮した不稼働度が正しいアプローチです。著者は論文(9)式において $$ M_\text{PMHF}=\frac{F(T_\text{DIAG})}{T_\text{L}}=\frac{(1-e^{-\lambda T_\text{DIAG}})}{T_\text{L}} $$ のように検出部分のみを考慮しています。これが検出部分のみというのは露出時間が$T_\text{DIAG}$ということで分かります。不検出部分を考慮すれば露出時間は$T_\text{L}$が関係するからです。そのため、本来は検出部分だけでなく不検出の部分の$(1-DC)F(T_\text{L})$も加わるはずです。DC=100%という前提であることは原文からもわかります。

Even if the cyclisation is taken into account, the DC is not, and it is assumed to be DC = 100 %.

一方でRFでは残余部分である(1-DC)を考えているのでDC=100%という前提は改善が必要な前提だと言えます。

さらに一周期分の不稼働度を車両寿命で割ることにも改善の余地があります。本来車両寿命間には検査周期が$n=T_\text{L}/T_\text{DIAG}$個あるはずなので、上式$F(T_\text{DIAG})/T_\text{L}$を$n$倍するべきです。

どうしてこの式になったのかは不明ですが、修理されたものは二度と故障しないという仮定なのでしょうか? 修理され良品となっても次の検査サイクルで故障する可能性はあります。従って、毎サイクルで不信頼度は$F(T_\text{DIAG})$となるため全周期分を車両寿命で割るべきです。

そもそも本論文の目的は、SPF/RFにおいても離散的な検査を考慮し、みかけのPMHFを引き下げることでFHTI$\ge$FTTIとなるようなサブシステムについてもOKとしたいということのようです。しかしながら、前述のように本来FHTI$\ge$FTTIという時点でDCをクレームできない(すなわちDC=0)というのがISO 26262的な観点であるため、PMHFは引き下げるどころか引き上げられます

従って、上記の数々の枝葉の問題以前に根本が破綻していると言えます。せっかくCyclisationを考慮するのなら2nd SMについての検討が望まれます。


$\dagger$A. Köhler and B. Bertsche, “Cyclisation of Safety Diagnoses: Influence on the Evaluation of Fault Metrics,” 2021 Anuu. Rel. Maint. Symp. (RAMS), pp 1–7, Orlando, FL, USA, (Jan.) 2021.


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tableについたidのテスト

posted by sakurai on March 5, 2024 #9007
分類 旧会社を活用(商号・定款・役員変更のみ) 解散→清算→新会社設立
①手続きの簡便さ・期間 • 株主総会→定款変更→登記:おおよそ2〜3週間程度で完了可能
• 登記申請書類は「変更登記」中心なので書類作成量は抑えられる
• 社会保険・労働保険の法人番号・基礎情報がそのまま継続
• 解散決議〜清算結了:通常6ヶ月~1年程度かかる(債権者異議期間を含む)
• 清算後、新会社設立:書類作成から登記完了までさらに1ヶ月程度
• 全体で最低7〜8ヶ月、長ければ1年以上かかる可能性
②登記・官報への費用 • 定款変更(登録免許税):30,000円
• 役員変更:取締役1人あたり10,000円×人数分
• 合計:おおよそ50,000〜80,000円程度
• 解散登記:10,000円(解散決議登記)+10,000円(清算人選任登記)
• 清算結了登記:10,000円
• 新設登記:最低150,000円(資本金1,000万円×0.7%が70,000円、但し最低150,000円)
• 定款認証費用:52,000円(紙定款の場合)
• 官報公告費用:解散公告/債権者公告合わせて約50,000〜70,000円程度
• 合計:最低約300,000〜350,000円程度(場合によってさらに数十万円上積み)
③社会保険・労働保険の継続 • 会社の法人番号が変わらないため、社会保険・労働保険の資格・適用事業所番号も継続
• 届出は「名称・所在地変更届」程度で済み、再加入の手続きや被保険者資格の喪失→再取得は不要
• 旧会社が清算結了すると社会保険・労働保険の適用事業所は消滅
• 新会社では「新規適用事業所」として再加入手続きが必要
• 社会保険の「被保険者資格取得届」や労働保険の「新規適用届」を一から提出→従業員に新たな保険証番号が付与される
④許認可・届出関係 • 旧会社の許認可(建設業許可/運送業許可/各種届出等)は原則そのまま継続
• ただし、商号変更や本店所在地変更を行うと「許可変更届」「変更届」が必要
• 許可条件が変わらない限り、再審査や新規申請は不要
• 解散により旧会社の許認可は全て消滅
• 新会社設立後、改めて許認可を新規申請する必要がある
• 許認可の審査に数カ月かかるものもあるため、その間は営業停止・業務停止のリスク
⑤税務上の取り扱い • 旧会社として法人格を維持するため、解散清算時の「残余財産分配益」による株主課税は発生しない
• 登記変更に伴う税務申告は、法人税の異動届や事業所異動届程度で、課税上の取扱いは原則なし
• 清算過程で「残余財産分配」により、株主には譲渡所得または配当所得として課税関係が発生
• 清算企業は清算課税(確定申告)を行う必要がある
• 新会社は初年度のみ別途創業控除等の規定を検討可能(該当すれば税務メリットもある)
⑥法人格・信用・取引継続性 • 旧会社の法人番号・設立年月日がそのまま継続→取引先や金融機関への信用が維持されやすい
• 与信枠、銀行取引、契約関係も継続される
• 株主・役員情報は変更できるが、旧会社の実態は「同一法人」として見られる
• 旧会社は解散により法人格が消滅→取引先や金融機関との契約はすべて解除や名義変更が必要
• 新会社は「新規法人」とみなされ、信用枠・取引関係は一から構築する必要
• 賃貸借契約やリース契約などは再契約・保証人の変更手続きが必須
⑦社会保険・福利厚生の継続性 • 従業員は同じ被保険者番号を引き続き利用可能→保険料負担率や算定基礎などの引き継ぎがスムーズ
• 福利厚生制度(企業年金、退職金制度、健康診断契約など)も継続しやすい
• 旧会社の福利厚生制度はすべて廃止→新会社で新たに社会保険加入、労働保険加入を行う必要
• 退職金制度や企業年金があれば、清算時に退職金一時金計算などが発生し、その後新会社では再整備が必要
⑧従業員・人事制度の引き継ぎ • 会社名義は変わっても雇用契約自体は同一法人のまま→雇用契約書に「旧商号→新商号」と補正する程度で大きな手続き不要
• 従業員の在籍・勤続年数は継続される
• 人事制度や就業規則の一部文言変更(会社名・所在地等)で済む場合が多い
• 清算時に旧会社は雇用契約を一度「喪失」させないといけないため、従業員は(形式的に)退職扱いとなる
• 新会社と改めて雇用契約を締結→勤続年数の引き継ぎ可否は就業規則や社内規定によるが、実務上は一度区切るケースも多い(労働者の同意が要る)
• 新会社で就業規則・給与制度などを再整備し直す手間が発生
⑨株主・株式の扱い • 旧会社の株式はそのまま存続→商号変更等を行っても株主間の持株割合や株券(もし発行していれば)は原則変更不要(株券に貼るシール変更程度)。 • 配当権や議決権の継続性が保たれる。 • 解散清算時に残余財産を分配し、株式は消滅する→新会社設立時に新株式を引き受ける必要がある。 • 新株取得に際し、同一割合で引き受けるなら問題ないが、取得資金や払込手続きが発生する。 • 株式移転による課税や取得資金の準備が必要となる場合あり。
⑩費用総額イメージ • ≒50,000〜100,000円程度(登録免許税+印鑑証明代など)
• 社会保険・労働保険の変更届は基本無料(事務作業のみ)
• ≒300,000〜500,000円程度(解散・清算費用+官報公告+新設登記費用+公証役場費用など)
• 社会保険・労働保険の再加入手続きは手間ありだが基本費用は無料

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PUA関連論文Köhler2021 (3)

posted by sakurai on March 5, 2024 #747

論文$\dagger$の続きです。

Section 3まで前置きがあり、Section 4から各種アプローチの紹介があります。

4.1 ISO 26262 Approach

この著者は、ISO 26262ではSMについて周期的な検査は仮定していないから(それは正しい)、SPF/RFについては論文(7)式において $$ M_\text{PMHF}=\frac{F(T_\text{L})}{T_\text{L}}=\frac{1-e^{-(1-DC)\lambda T_\text{L}}}{T_\text{L}}\approx\frac{(1-DC)\lambda T_\text{L}}{T_\text{L}}=(1-DC)\lambda $$ であると書いています。ちなみに原文は以下のとおりです。

This approach is only valid for continuous safety measures with FHTI$\le$FTTI; no cyclisation is taken into account.

この考えの問題点は1st SMと2nd SMを区別していないところです。本来は2nd SMはこれに当てはまりません。

そもそもISO 26262自体の記述も偏っており、Part 10 8.4において、2つの事象を扱っています。まずSPF事象では当然修理は起きないので、$F(T_\text{L})/T_\text{L}$となるのは正しいのですが、次のDPF事象において、冗長系でかつ2nd SMの無い系について数学的なモデルを示しています。 「露出時間を考慮に入れる必要がある」と言いながら、2nd SMが無いため露出時間は常に車両寿命です。そのため修理時間は全く例に出てきません。これらの理由により1st SMの修理という事象がほとんどの論文で無視されているようです。

図%%.1
図747.1 Part 10のパターン分解

ところが図747.1に示すように、Part 10ではパターン2でSM1のフォールトが修理され、パターン4でIFのフォールトが修理されるという記述があります。どちらも露出時間は$T_\text{service}$です。

従って著者のISO 26262は非修理が前提という認識には改善の余地があります。


$\dagger$A. Köhler and B. Bertsche, “Cyclisation of Safety Diagnoses: Influence on the Evaluation of Fault Metrics,” 2021 Anuu. Rel. Maint. Symp. (RAMS), pp 1–7, Orlando, FL, USA, (Jan.) 2021.


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