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確率論 (11)

posted by sakurai on December 9, 2019 #188

今までは、スタティックな確率事象を議論してきましたが、いよいよ時間によって変化する確率事象、つまり確率過程について説明していきます。

確率過程

確率空間$(\Omega, \mathcal{F}, P)$、可測空間$(\mathcal{S}, \Sigma)$、全順序集合$T$が与えられ、時刻$t\in T$で添え字付けられる状態空間$\mathcal{S}$に値をとる確率過程$X_t$とは、 $$ X:\Omega\times T\to\mathcal{S} $$ であり、全ての$t\in T$に対して$X_t$が$\Omega$上の確率変数となるものをいう。

確率過程は時間的に変化する確率変数であり、「すべての$t\in T$に対して」というのは$\omega\in\Omega$を固定するという意味です。これはサンプルパスと言われます。一方で$t$を固定すれば、ある時刻の確率変数$X(\omega)$が得られます。従って、確率過程とは確率変数の時間変化に他なりません。

ただし、上の定義内の直積$\times$は、以下のような定義です。

$$ \Omega\times T=\{(\omega, t)\mid \omega\in\Omega\land t\in T\} $$

すなわち、2つの集合からひとつずつ取り出してペアとした集合です。

フィルトレーション

可測空間$(\Omega, \mathcal{F})$において、$t\in T$をパラメータとする$\mathcal{F}$の部分$\sigma$加法族の族$\{\mathcal{F}_t\mid t\in T\}$が$0\leq s\leq t\Longrightarrow\mathcal{F}_s\subseteq\mathcal{F}_t$を満たすとき、増大情報系(フィルトレーション)という。

適合

フィルトレーション$\{\mathcal{F}_t\}$が与えられた確率空間$(\Omega, \mathcal{F}, P)$上の確率過程$\{X_t(\omega)\}$が任意の$t\in T$に対して$X_t$が$\mathcal{F}_t$可測になるとき、フィルトレーション$\{\mathcal{F}_t\}$に適合するという。

従って、$X_t$が$\{\mathcal{F}_t\}$に適合している場合は、ある時刻での$X_t$が時刻$t$までに観測しうる情報で表せることを意味しています。これを因果的(causal)といい、そのような空間をフィルター付き確率空間$(\Omega, \mathcal{F}, P, \{\mathcal{F}_t\})$と呼びます。


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確率論 (10)

posted by sakurai on December 6, 2019 #187

基本単位についての定理です。

$X$を可測集合$(\Omega, \mathcal{F})$上の実確率変数、つまり$\mathcal{F}$可測写像とすると、これは$\mathcal{F}$の基本単位上で定数となる。

まず、確率変数$X$は前記事で定義したように、$\mathcal{F}$可測であることから逆像が$\mathcal{F}$の要素となります。これを表すために、定数を$x\in\mathcal{B}$とすれば、その逆像は$A=X^{-1}(\{x\})$と書け、$A\in\mathcal{F}$と表せます。$\mathcal{F}$の基本単位を$C$で表し、$C\cap A\neq\varnothing$となるようにとれば、$C$は基本単位であるため、$C\subset A=X^{-1}(\{x\})$。これを$X$により写像すれば、$X(C)\subset X(A)=x$より、基本単位の$X$による写像は定数となります。


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確率論 (9)

posted by sakurai on December 3, 2019 #186

基本単位

  1. $\Omega$の部分集合の族$\mathcal{G}$が$\mathcal{G}\subset\mathcal{F}$を満たし、かつ$\mathcal{G}$自身が$\sigma$加法族であるとき、$\mathcal{G}$を$\mathcal{F}$の部分$\sigma$加法族という。
  2. $\sigma$加法族$\mathcal{G}$の要素集合$A(\neq\varnothing)$で、$A$自身と$\varnothing$を除く全ての$A$の部分集合が$\mathcal{G}$に属さないとき、$A$を$\mathcal{G}$の基本単位という。

基本単位は情報の粗さを決定する最小単位です。例を挙げてみます。

標本集合 $$ \Omega=\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}, \img[-0.2em]{/images/d5s.png}, \img[-0.2em]{/images/d6s.png}\} $$ があり、どのような基本単位で事象を考えるかについて、例えば、$\sigma$加法族$\mathcal{F}$に関して、 $$ A_1=\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}\}, A_2=\{\img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}, A_3=\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\}, A_4=\{\img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}, A_5=\{\img[-0.2em]{/images/d5s.png}\}, A_6=\{\img[-0.2em]{/images/d6s.png}\} $$ のような集合$A_i (i=1,...,6)$を考えると、これは上記の基本単位の定義を明らかに満たしています。 各事象集合$A_i$に属する集合は根元事象で、その部分集合から自分自身と$\varnothing$は無いため、$\mathcal{F}$に属さず、$A_i$は$\mathcal{F}$の基本単位となります。

次に、奇数の目の集合と偶数の目の集合を考えます。 $$ A_\text{odd}=\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d5s.png}\}, A_\text{even}=\{\img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}, \img[-0.2em]{/images/d6s.png}\}, \mathcal{G}=\{A_\text{odd}, A_\text{even}, \Omega, \varnothing\} $$ 自分自身と$\varnothing$を除く$A_\text{odd}$の部分集合は、 $$ \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d5s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d5s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d5s.png}\} $$ となり、いずれも$\mathcal{G}$に属していません。$A_\text{even}$に関しても同様であり、$A_\text{odd}$、$A_\text{even}$とも、$\mathcal{G}$の基本単位となります。

この例は、確率微分方程式とその応用, 清兼泰明, 森北出版の例2.3.10に掲載されているものです。


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確率論 (8)

posted by sakurai on November 23, 2019 #185

確率変数から生成される$\sigma$加法族

ボレル集合から生成された$\sigma$加法族を定義しましたが、今回は確率変数から生成される$\sigma$加法族を定義します。

確率空間$(\Omega, \mathcal{F}, P)$上で定義された可測空間$(\mathcal{E}, \mathcal{G})$に値を取る確率変数$X:\Omega\to\mathcal{E}$に対し、集合族$\mathcal{A}_X$ $$ \mathcal{A}_X=\{X^{-1}(G):G\in\mathcal{G}\}=\{\{\omega\in\Omega:X(\omega)\in G\}:G\in\mathcal{G}\} $$ を確率変数$X$から生成された集合族という。$\mathcal{A}_X$から生成される$\sigma$加法族$\sigma[\mathcal{A}_X]$を$\sigma[X]$と書く。

前記事

空でない集合$S$の、様々な部分集合$E_n$を元とする集合族$\mathfrak{B}_0$に対して、この$\mathfrak{B}_0$を含むような$\sigma$加法族のうち最小のものが存在する。これを$\sigma[\mathfrak{B}_0]$と書き、$\mathfrak{B}_0$から生成された$\sigma$加法族と呼ぶ。

のように定義していたので、後半はこれを使用していることがわかります。つまり確率変数$X$から集合族を生成し、その集合族から$\sigma$加法族を生成しています。

重要な点は、このように定められた$\sigma$加法族$\sigma[X]$は確率変数$X$にとって必要十分であるため、根元事象である$\Omega$の構造は不要となることです。$\Omega$はもはや十分大きければなんでも良いわけです。


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確率論 (7)

posted by sakurai on November 20, 2019 #184

具体例をサイコロの目で表してきましたが、部品の故障とは関係ないので、あまりピンときません。そのため、確率変数を部品の故障で考えることにします。すでに確率変数をFFOT(Failure Free Operating Time)で考慮してきましたが、標本空間$\Omega$や確率空間$(\Omega, \mathcal{F}, P)$から考え直します。

最初に標本空間$\Omega$は、N個の部品から構成されているサブシステムにおいて、全ての故障事象とします。従って、$\Omega$の元は$N$個であり、状態はそれぞれにup, downがあるため、$2^N$です。 $$ \Omega=\{(\omega_n)_{n\in N};\omega_n\in\{\text{up, down}\}\} $$ 次に$\sigma$加法族は$\Omega$の部分集合となりますが、 確率変数$X_n:\Omega\to\mathbb{R}$をn番目の部品のupかdownかを示すものとして、 $$ X_n(\omega)=X(\omega_n)=\begin{cases}1&\omega_n\in\text{up}\\ 0&\omega_n\in\text{down} \end{cases} $$

期待値

確率変数が以下の形で書けるとき、確率変数は単確率変数と呼ぶ。 $$ X(\omega)=\sum_i a_i\mathbf{1}_{A_i}(\omega),\ \ \ \ a_i\in\mathbb{R}, A_i\in\mathcal{F} $$

ただし、$\mathbf{1}_{A_i}(\omega)$は$A\in\mathcal{F}$の指示関数で、

$$ \mathbf{1}_A(\omega):= \begin{cases} 1 & (\omega\in A) \\ 0 & (\omega\notin A) \end{cases} $$

で定義されるものとし、このとき、先の単確率変数の期待値は、以下により定義される。 $$ E(X):=\int_\Omega X(\omega)P(d\omega)=\sum_ia_iP(A_i) $$

指示関数はディラック測度とも呼ばれます。 $$ \delta_\omega(A)= \begin{cases} 1 & (\omega\in A) \\ 0 & (\omega\notin A) \end{cases} $$


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確率論 (6)

posted by sakurai on November 19, 2019 #183

確率分布関数の話をしましたが、公理的確率論では以下のように定義されます。

確率分布

前記事において事象族$\mathcal{F}$に対して写像である確率$P$を定義しました。また、前記事において確率変数$X$により、例えば根元事象$\img[-0.2em]{/images/d1s.png}$を1に写像することを説明しました。確率変数の定義を再度掲載すれば、

Borel加法族が$\mathbb{B}(\mathbb{R}^n)=\mathbb{B}^n$であり、$X:\Omega\rightarrow\mathbb{R}^n$のとき、 $$ \forall B\in\mathbb{B}^n\to X^{-1}(B)=\{\omega\in\Omega;X(\omega)\in B\}\in\mathcal{F} $$ となる写像$X$を$\mathcal{F}$可測写像、あるいは確率変数と呼ぶ。

$X$により事象族$\mathcal{F}$がBorel加法族$\mathbb{B}$に写像されます。すると、$P$と同様な確率測度$P_X$が定義でき、

確率変数$X$に対して $$ B\in\mathbb{B}^n\to P_X(B)=P(X^{-1}(B))=P(\{\omega\in\Omega;X(\omega)\in B\})=P(X\in B)\ $$ により定まる可測空間$(\mathbb{R}^n, \mathbb{B}^n)$上の確率測度$P_X$を、確率変数$X$の確率分布と呼ぶ。

確率分布関数

確率分布が集合関数であるのに対して、確率分布関数は点関数(普通の関数)です。確率分布関数は、確率変数が$x$以下である確率を意味します。

$$ F_X(x)=P_X(\{X\in\mathbb{R}^n;X_i<=x_i (i=1, 2, ...,n)\})=P(X\leq x) $$ を確率分布関数(Cumulative Distribution Function, CDF)と呼ぶ。

確率密度関数

確率分布関数$F_X(x)$が微分可能である場合、 $$ f_X(x)=\frac{\partial^n}{\partial x_1...\partial x_n}F_X(x) $$ を確率密度関数(Probability Density Function, PDF)と呼ぶ。

測度としては面積($\mathbb{R}^2$)、体積($\mathbb{R}^3$)のアナロジーで理解されるように、確率測度を$n$次元ユークリッド空間で考えていますが、故障確率を考える上では1次元で十分です。従って、CDF及びPDFはそれぞれ

$$ F_X(x)=P_X(\{X\in\mathbb{R};X<=x\})=P(X\leq x) $$ $$ f_X(x)=\frac{d}{dx}F_X(x) $$

となります。


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確率論 (5)

posted by sakurai on November 15, 2019 #182

前記事の図181.1を生成したコードは以下のようなもので、i番目の部品が稼働していたら(life[i]==1)サイコロを振り、故障率で示される範囲に入っていたら故障とする(life[i] = 0)ものです。そのときの稼働時刻t-1を(tは不稼働時刻であるため)FFOTに格納します。

for (t = 0; t < TIMEMAX; t++) {
    for (int i = 0; i < IMAX; i++) {
        if ((life[i] == 1) && (genrand_real1() < lambda)) {
            life[i] = 0; // failed
            ffot[i] = t-1; // t-1 is the failure free operating time
        }
    }
}

コードを見るとわかるようにどこにも指数関数は使用していませんが、前図181.1のように指数分布になります。このことは過去記事(#1#5)でも解説しているように、簡単に示すことができます。ここで故障率$\lambda$は定数とします。

時刻$t=0$では全ての部品が良品(信頼度=1)であり、時刻$t$において、1時間後の信頼度の減少は故障率に比例することから、信頼度についての差分方程式が得られます。 $$ R(t+1)-R(t)=-\lambda\cdot R(t) $$ 1時間後ではなく、$\Delta t$時間後として、これを0に限りなく近づければ、差分方程式は信頼度について微分方程式となり、 $$ \lim_{\Delta t\to 0}\frac{1}{\Delta t}\cdot[R(t+\Delta t)-R(t)]=\frac{dR(t)}{dt}=-\lambda\cdot R(t)\\ -\lambda=\frac{1}{R(t)}\frac{dR(t)}{dt}=\frac{d}{dt}\ln R(t)\\ -\int_{0}^{t}\lambda dx=-\lambda t=\ln R(t)+C\\ \therefore R(t)=e^{-\lambda t-C}=e^{-\lambda t}\\ $$ このように故障率を一定として微分方程式を立て、積分して分布関数を求めると、上記のように信頼度が求まります。不信頼度(CDF, 累積分布関数)は以下のようになります。 $$ F(t)=1-R(t)=1-e^{-\lambda t} $$


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確率論 (4)

posted by sakurai on November 14, 2019 #181

確率変数

次は(実数)確率変数の定義です。

確率変数$X$は標本空間$\Omega$の要素$\omega$に対して、実数値$x\in\mathbb{R}$(正確には$\mathbb{R}^n$)を写像する関数で、その逆像が$\Omega$の部分集合となるような可測関数です。

$$X:\omega\in\Omega\rightarrow x\in\mathbb{R}$$あるいはこれを簡単に $$X:\Omega\rightarrow\mathbb{R}$$ と表したとき、 $$X(\omega)=x\in\mathbb{R},\ X^{-1}(x)=\omega\in\Omega$$

実は、サイコロを振った事象をJupyter Notebookで表せるように$\{1, 2\}$等としていましたが、本来はサイコロ事象なので、$\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}$等とすべきでした。しかし、これでは計算が困難なため、(根元)事象を数値にマッピングすると便利です。その写像が上記で定義した確率変数です。

無故障稼働時間

具体例を示します。例えば確率変数がFFOT(Failure Free Operating Time; 無故障稼働時間)を表す時、部品が1,000個ある場合の故障状況をExcelでシミュレーションしてみます。ここで部品の故障率は皆同じで、$1.0\times 10^{-4}$とします。

図181.1 (1)の縦軸は1,000個の部品番号を示します。横軸は時間$t$[h]です。1,000個の部品が時間$t$に従って、ランダムに故障する状況を示しています。

図181.1 (2)はそれを故障した順番(つまりFFOTの短い順)にソートしたものです。

図%%.1
図181.1 部品の故障グラフ

ここでは修理が無いため故障した部品はもう故障しないので、故障していない部品のみが故障することから、上記のFFOTの長さでソートすると、図181.1 (2)に示すとおり、一定の法則が見られます。これを確率分布(時間に関する確率分布は特に確率過程と呼ばれます)と呼び、故障率一定の場合は指数分布となります。


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確率論 (3)

posted by sakurai on November 13, 2019 #180

ほとんど確実に

確率空間$(\Omega,\mathcal{F},P)$が定義されたので、確率が0になる事象に関して有用な概念をいくつか説明します。

ある事象$N\in\mathcal{F}$で、$P(N)=0$なるものをP零集合あるいは零事象と呼ぶ。

例えば、今度は1から4までの目のあるサイコロにおいて、出目が2以下かどうかを観察します。 $$\Omega=\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}$$ $$\mathcal{F}=\{\varnothing, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}\}$$ であるときに、たまたま歪んだサイコロで、 $$ P(\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\})=0 $$ であった場合、事象$N=\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}$は零事象と呼びます。

ある事象$E\in\mathcal{F}$で、$P(E)=1$であるとき、$E\ (a.s.)$等と書き、Eはほとんど確実に起こるという。

上記零事象$N=\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}$を全事象から除いた余事象$N^c=\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}$ですが、全事象ではないものの、 $$P(\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\})=1$$ となり、事象$\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}\ (a.s.)$となります。

一般に零事象の部分集合は、元の$\mathcal{F}$の元になっているとは限りません。実際に上記零事象$N=\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}$の部分集合$E_3=\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\}$や$E_4=\{\img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}$は

$$\mathcal{F}=\{\varnothing, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}\}$$ に含まれません。一方、

零事象$N$の部分集合が全て事象$\tilde{\mathcal{F}}$に含まれている場合は、確率空間$(\Omega,\tilde{\mathcal{F}},\tilde{P})$は完備であるという。

上記のように完備でない確率空間の場合、完備化は容易です。事象族$\mathcal{F}$に$E_3$と$E_4$及び、それらと元の元の和集合を含めれば良いだけです。実際にやってみると、 $$ \tilde{\mathcal{F}}=\{\varnothing, \{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}, \{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png},
\img[-0.2em]{/images/d3s.png}, \img[-0.2em]{/images/d4s.png}\}\} $$ が、完備化された事象です。ここで$E_3$や$E_4$の確率を求めると、もともと $$ P(\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\cup\img[-0.2em]{/images/d4s.png}\})=P(\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\})+P(\{\img[-0.2em]{/images/d4s.png}\})=0 $$ であることから、$P(A)\geq 0$より、 $$ P(\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\})=P(\{\img[-0.2em]{/images/d4s.png}\})=0 $$ このように、それらは加法公理から零事象となるため、定量的な議論には影響がありません。従って、議論の対象となる確率空間$(\Omega,\mathcal{F},P)$は完備であると前提しても良いわけです。


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確率論 (2)

posted by sakurai on November 11, 2019 #179

測度

次は測度です。

可測空間$(S,\mathfrak{B})$に対し、$\mathfrak{B}$上で定義された集合関数$\mu$(あるいは写像$\mu:\mathfrak{B}\rightarrow\mathbb{R}$)が次の2条件を満たすとき、$\mu$を可測空間$(S,\mathfrak{B})$上の測度と呼ぶ。

  1. 任意の$E\in\mathfrak{B}$に対し、 $$\mu(\varnothing)=0, 0\le\mu(E)\le \infty$$
  2. $E_n\in\mathfrak{B} (n=1,2,...)$において、$j\ne k$ならば$E_j\cap E_k=\varnothing$であるとき、 $$ \mu(\bigcup_{n=1}^{\infty}E_n)=\sum_{n=1}^{\infty}\mu(E_n) $$ また、$(S,\mathfrak{B},\mu)$を測度空間と呼ぶ。

これらの公理から、測度の有限加法性、単調性、劣加法性、上方連続性、下方連続性を導くことができます。測度が加法性を持つことは、測度がモノの長さや面積に対する抽象化であることを意味しています。

確率

確率論は測度論を基礎としており、いよいよ確率の定義です。

以下の条件を満たす測度空間$(\Omega,\mathcal{F},P)$を確率空間と呼び、その$P$を確率(測度)と呼ぶ。

$$P(\Omega)=1$$

つまり、確率という、分かったようで分からない概念は、長さや面積と同様、測度の一種だったのです。この$\mathcal{F}$上の確率測度$P$は、写像$P:\mathcal{F}\rightarrow[0, 1]$と同じことです。事象を0から1までの数値にマッピングするものです。

さらに、確率空間$(\Omega,\mathcal{F},P)$において、集合$\Omega$は標本空間(または全事象)で、$\Omega$の元$\omega_n$を根元事象と呼びます。従って、 $$ \omega_n\in\Omega $$ また、$\mathcal{F}$の元$E_n$を事象と呼びます。従って、 $$ E_n\in\mathcal{F} $$

具体例

標本空間を$\Omega$として、$\img[-0.2em]{/images/d1s.png}$から$\img[-0.2em]{/images/d3s.png}$までの目のあるサイコロを表す集合を考えます。目が6までないのは、全てを書き表すと数が多くなるため、単に目の組み合わせの数を減らしたいためです。この$\img[-0.2em]{/images/d1s.png}$から$\img[-0.2em]{/images/d3s.png}$までの目はこれ以上分割できない事象であるため、根元事象$\omega\in\Omega$と呼びます。つまり、 $$ \Omega=\{\omega_n;n=1,2,3\}=\{\omega_1, \omega_2, \omega_3\}=\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}\} $$ この集合の取り出し方法(目の出方、事象)$E_n$の集合が事象$\mathcal{F}$となります。例えば、サイコロを非常にたくさん振った時の目の出方を考えます。一つ一つの目を区別する測り方としますが、この測り方により事象が変わってきます。目の出方の組み合わせは最大$2^3=8$通りあります。つまり、 $$ E_n (n=1,2,...8)\in\mathcal{F} $$ 例えば$E=\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\}$は、出た目が$\img[-0.2em]{/images/d1s.png}$または$\img[-0.2em]{/images/d2s.png}$と考えます。

そして、8個の元全てに対して$[0,1]$の値を写像する関数$P$を考え、これを確率測度とします。

同じくJupyter Notebookで試してみると、

Ω=FiniteSet(1, 2, 3)
Ω

{1,2,3}

generate_sigma_algebra(Ω,FiniteSet({1},{2},{3}))

{∅,{1},{2},{3},{1,2},{1,3},{2,3},{1,2,3}}

この$\{\{1\},\{2\},\{3\}\}$は、標本空間$\Omega$に対して、目の一つずつを見分けるという、識別の仕方を示しています。同じ出目であっても、識別の仕方で確率は変わってきます。

Ω.powerset()

{∅,{1},{2},{3},{1,2},{1,3},{2,3},{1,2,3}}

生成された事象集合$\mathcal{F}$は$\Omega$のべき集合$2^\Omega$となっています。

ここで確率$P$の具体例を見てみます。公理から、 $$ P(\varnothing)=0\\ P(\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}\})=1 $$ 全ての根元事象の確率が等しいと仮定すれば、 $$ P(\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}\})=P(\{\img[-0.2em]{/images/d2s.png}\})=P(\{\img[-0.2em]{/images/d3s.png}\})=\frac{1}{3} $$ となります。上記$\sigma$加法族が示すように、目の出方の残りは、 $$ P(\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d2s.png}\})=P(\{\img[-0.2em]{/images/d2s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}\})=P(\{\img[-0.2em]{/images/d1s.png}, \img[-0.2em]{/images/d3s.png}\})=\frac{2}{3} $$ となります。

事象のべき集合$2^\Omega$は、確率が定義できる可測空間の中で最大のものであり、もっと小さいものも定義できます。以下の集合が最小の事象集合です。 $$ \mathcal{F}=\{\varnothing, \Omega\} $$ これは事象の識別の仕方を前とは変えたものです。目を全く区別せず、目が出るか出ないかのみに着目した$\sigma$加法族です。それぞれの事象の確率はいうまでもなく0と1です。


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